寄り道 Side:黒子 06

「あ!居た!どこに行ってたんだよ」

黒子達を見つけた青峰は眉根を寄せて睨んでる。そこに桃井も走り寄って来た。

「テツ君、どこ行ってたの〜?振り返ったら居なくなっているから、探したんだよ?」
「すみません。黄瀬君が急にお腹が痛いと言うもんですから」

両手を握りしめて、探していたと言う桃井に黒子はそっと微笑んで答えながら、後ろを指差す。

「きーちゃん!大丈夫!?」

お腹を抱えて、黒子から少し離れて前傾気味に付いてくる黄瀬が桃井に応えて、力なく手を振る。

「だ、大丈夫っス」
「なんだぁ?黄瀬、腹痛か?」

黄瀬に近寄った青峰が呆れた顔で片眉上げて、状況を聞く。
黒子達を探して周囲に散っていた緑間と紫原も次々に戻ってきて、見つけた黒子と黄瀬に声を掛ける。

「あれー。黄瀬ちん、見つかったんだ。どうしたの?お腹痛いの?」
「女どもとジュースでも飲み過ぎたんじゃねぇのか?」
「人事を尽くさないからなのだよ」
「いや、これは黒子っちに・・・」

口ぐちに勝手なことを言う3人プラス、心配そうな桃井に本当のことを言おうとしたところで、黒子の言葉が被せられた。

「最近、朝晩、冷えますから。腹痛ですよね、黄瀬君?」

滅多に見せない笑顔と共に口調だけは丁寧に黒子が黄瀬に確認する。

「そっ、そうっス!腹痛っス!でも、もう大丈夫っス!」

黄瀬には分かる。普通を装って言っているが、怒っている。笑顔も黄瀬にしか分からない程度だが引き攣っている。
離れ際に唇を舐めたら、今日、2回目のイグナイトをお見舞いされた。時間を置かずにイグナイト2発はキツい。
力ない笑顔の一方で、妙に力を込めて問題ないことをアピールする黄瀬に、一同、幾ばくかの疑問はあったものの、それ以上の追及は誰もしなかった。

「テツ、黄瀬の腹痛にお前まで付き合うことないぜ?」

と青峰が言えば、

「黒子、お前も風邪引き易いのだから、早く帰るべきなのだよ」

と緑間も眼鏡のブリッジを押し上げて言う。
紫原は黒子の後ろからのしっと覆い被さって、黒子の頭に自分の顎を乗せた。

「もう、帰ろうよー。・・・あれー?黒ちんから、なんか黄瀬ちんと同じ臭いが・・・」

黒子の髪に鼻を埋めてすんすんと臭いを嗅ぎながら、紫原がのっそりした調子で黒子の顔を覗き込む。

「!」

黒子は慌てて、振り返って紫原の口を両手で塞いだ。いつも眠そうな目をしている紫原の目が驚きで心もち開く。

「紫原君、帰る途中のコンビニでお菓子買いましょう!そろそろ、お腹が空いたんじゃないんですか?」

焦った黒子はとっさに脈絡のないことを言ってしまったと自分でも思ったが、紫原に菓子を買おうという提案は非常に有効だ。黒子から黄瀬の匂いがしたことを質問しようと思ったこともすっかり忘れて、紫原の頭の中は何を買おうかでいっぱいだ。

「来る前にポテチは食べたでしょー。あぁ、ポッキーの新味が出ていたっけ」

危なかった。紫原は不意に抱き付いてくるから、躱しにくい。
そんなに黄瀬の匂いがするのか?
黄瀬は微かにコロンの匂いがするから、先程の接近で移ったのかもしれない。
黒子は自分の肩口の匂いを嗅いでみたが、自分では分からない。自分の匂いと同化してしまっていて、自分では気づかないということだろうか。
黒子は黄瀬に近寄ると手を伸ばした。

「さぁ、黄瀬君。帰りましょう」
「黒子っち・・・」

紫原の不要な接触に文句を言おうとしていた黄瀬も笑顔になって、黒子の手を取る。
長かった放課後ももう終わる。家はすぐそこ。
帰ったら、黄瀬君にメールをして、仕切り直しで次の機会にどこに行くか相談しよう。

2014年4月13日

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