寄り道 Side:赤司 01

「あぁ、そうですか。まだ帰宅されてないんですね?いえ、明日の部活動の件で相談したかったことがあったのですが・・・あ、いえ、僕の方は構いませんが・・・そうですか。では、折り返して頂けると助かります。お手数お掛けします。はい、それでは失礼します」

丁寧な口調で電話を切ると左右の色の異なる瞳が室内の光を受けてきらりと反射する。
手にしていた携帯をテーブルの端にそっと置くと、眼前の将棋の盤面へと目を向けた。椅子の上に乗せた片足の膝に手を掛けて、次の手を考える。

(ふぅん。まだ帰ってないとはね)

一度置いた携帯へと手を伸ばし、黄瀬と緑間へメールを打つ。

「今どこにいる?」

再び携帯をテーブルの端へと戻すと盤上の駒を動かす。次の手を考えつつ、経つこと数分。

「そういうことか・・・真太郎までボクの言いつけを守らないなんて、想定外だな」

無言のままの携帯をちらりと一瞥して、表情のないままに呟いたと思うとふっと笑って、言葉を継いだ。

「いや、想定外ではないか。遅かれ早かれ、そうなるのは分かっていたからね」

黒子が自分から言い出したわけではないけど右手を痛めていたのにはすぐに気づいた。誰よりも黒子に視線を向けていたから。
控えめなのに、内面にバスケに対する熱い想いを抱えている黒子には好感を持っているが、必要がないときにまで無理をして不調を長引かせる必要はない。
都合よく試験前で練習も軽めにあげられる日なのだから、早く帰って休んだ方がいいと思った。
本当は自分が家まで送って行くのが確実で、そうしたいのはやまやまではあったが、どうしても外せない用事があった。叶うことなら、優しく見守りつつ、家まで送り届けたかったのに。
黄瀬と黒子が最近、距離が近いような気がするのは決して気のせいではないだろう。二人で帰れば、滅多にない練習のない放課後をどこに寄り道して遅くなるか分かったものじゃない。
桃井に頼めば、そう遅くなることはないと思っていたが、帰りがけの校門のところでキセキの面子を見て、少し嫌な予感がした。
恥ずかしげもなく黒子に抱き付く黄瀬はともかく、青峰も緑間も理由がないと黒子を誘えないと思っていたが、変にキセキが集まってしまったことで一緒に帰る理由を与えてしまったらしい。
この分だと聞かずとも青峰も紫原もきっと一緒なのだろう。経緯は明日、紫原にでもゆっくり聞けばいい。

「自分たちばかりテツヤとの時間を楽しむなんて、許しがたいな。皆、明日はまず外周だな。・・・王手」

盤上の駒を手に取り、ぱちんと音を立てる。
だいたい自分がまっすぐ帰れと言ったのに、言いつけを守らずに皆とよろしく楽しんで寄り道をした黒子も少なからず憎い。
まずは帰宅して母親に赤司から電話があったことを聞いて、黒子はどんな顏をするのだろう。
折り返しは何時でも構わないと伝えたから、真面目な黒子のことだ、きっと電話をしてくる。寄り道したことを意地悪く問い質そうか。それとも、優しく包んで「別にいいんだよ」と伝えようか。赤司の口元が自然に弧を描く。
黄瀬も緑間も返信が来ないが、今頃、赤司のメールにどう返信するか悩んでいることだろう。
そもそも、黄瀬が付いていながら、さっさと帰宅させなかったのは許しがたい。黒子のことを大事に思うならまっすぐ帰らせるべきだろう。

「やっぱり涼太には任せておけないな」

携帯の着信を告げる点滅を見て、赤司は目を細めた。

2014年4月27日

inserted by FC2 system inserted by FC2 system