寄り道 Side:黒子 03

ふと気づけば、緑間たちがそんなやり取りをしているところから、少し遅れて、黄瀬と桃井が何やら話しながら歩いてくる。
黒子には背後の二人の会話の中身がすごく気になる。
黄瀬が桃井とどうこうなるとは思えないが、やはり女の子と距離も近く話されるのは心穏やかじゃない。桃井は美少女で通っていて、バスケ部内にも密かに桃井に思いを寄せる者は少なくない。
こそこそ話す二人の距離も気になる。
早く黄瀬に何を話していたのか聞いてみたいが、さすがに今日はもう二人きりにはなれないだろう。

(今日はもう、帰宅後に携帯で話すのが精いっぱいですね)

知らず黒子から小さな溜息が漏れてしまう。
今日はなんだか長い放課後だった。黄瀬と二人でどこかへ寄るはずだったのが、皆でゲーセンに行ったり、ゲーセンで景品のまいう棒を手に入れたり、高校生に絡まれたり、ようやく家に近付いたと思ったら、ゲーセンで絡んできた高校生に再び出くわす等、盛りだくさんだった。その一方で黄瀬と居たのはごくわずかの時間だった。
明日また会えるのだけど、本当言えば、ちょっぴり寂しかった。

「マジっスか!?」

黄瀬が急に大きい声を上げて、青峰が聞きとがめる。

「おい、どうかしたのか?」

黄瀬が両手を前に突き出して「言えないっス!」と言う一方で黄瀬のまんまるに大きく開かれた目が黒子を凝視している。

「?」

黄瀬の様子に黒子が首を傾げているうちに、青峰の追及をかわすためか、桃井が話題を変えるように唐突に赤司の名前を出す。

「あーあ、赤司君は寄り道するなって、言ったのに、結局いっぱい寄り道しちゃった」

拗ねたように言う桃井に黒子は申し訳なく思う。ゲーセンへの寄り道を提案したのは自分だ。
赤司に桃井と一緒に帰るように言われて、黄瀬と二人で帰るのは早々に諦めたものの、さすがにコンビニで別れてしまうのには早すぎる。少しでも一緒にいる時間を引き延ばしたかった。
とりあえず、寄り道したことは赤司には内緒にしようと提案すると、青峰には「すぐあいつは見抜くだろ」と言われ、緑間も「紫原は赤司に言うと思うのだよ」と言う。
赤司に見抜かれるだけではなく、先に紫原からバレる可能性の方が高いことを忘れていた。
「それは困りました」と思ったところで、紫原の声がした。

「えー、オレがどうしたの?」
「おわっ!」

のんびりした声が急に会話に加わる。

「紫原君、帰ったんじゃなかったんですか?」

どきどきする胸を収めるように胸に手を当てつつ、黒子が問い掛ける。心臓に悪い。

「黒ちんにお裾分けしようと思ってさー」

まいう棒がぎっしり入ったコンビニ袋を嬉しそうに掲げて、黒子に差し出す紫原に黒子は口元で笑って、礼を言う。
黒子たちと別れた後、コンビニを数軒回って、まいう棒の新味を探したのだと言う。
紫原のお菓子のお裾分けは彼最大の好意の表れだ。思わず、黒子の胸もほんのり温まる。

「ありがとうございます」

お礼を言いつつ、赤司への口止めも忘れない。「赤司に怒られるから」と言うと紫原もすんなり、内緒にすることを了承した。
黒子が

「じゃあ、今日のことはここにいる6人の秘密ということで」

と言ったところで、桃井が嬉しそうに自分の世界へと入る一方で、同じように黒子の言葉を反芻する者が他にも数名。

「テツ、俺たちの秘密だな」

と青峰が黒子の肩に腕を回して抱き込むように言えば、

「黒子、お前がそこまで頼むのなら、オレたちの秘密にしておいてやるのだよ」

と緑間も公園の街灯の光の下でも分かるくらいに耳を赤くしながら返し、

「黒ちんがそう言うなら、赤ちんに内緒にするね」

と紫原も青峰の上から黒子を抱え込む。

「皆、皆のっスよ!?分かってるっスか?黒子っちと二人の秘密じゃなくて、6人の!」

紫原と青峰を黒子から引き剥がそうと手を掛けながら、黄瀬が主張する声が虚しく響く。

(まぁ、楽しかったかな)

2013年11月4日

inserted by FC2 system inserted by FC2 system