寄り道 Side:黒子 02

「ったく、相変わらず無謀だな。右手、捻挫してるんだろ?」

コートを出ると青峰が呆れたように黒子の頭を小突いた。

「すみません」
「ほんとっスよ!オレたちが現れなかったら、どうなっていたか分からないっスよ!?」

殊勝に謝る黒子に黄瀬が抱きついてくる。どさくさに紛れて、首元に顔を埋めてくるので、黒子がイグナイトを見舞って、教育的指導を入れてやろうかと右手の拳をぐっと握ったところで、緑間の手によって分け入られ、黄瀬が青峰に蹴られる。

「うぜぇ、テツから離れろ」
「見苦しいのだよ」
「ヒドッ」

黒子は青峰と緑間の二人の息の合ったコンビネーションに驚きながら、離れて行った黄瀬の体温を寂しく感じる。こっそり黄瀬を見遣ると、青峰たちにきゃんきゃんと文句を言っていた黄瀬が不意にこちらを見て、視線が合った。
ひどく恨めしそうな、物言いたげな視線だった。これは後々、覚悟しておく必要がありそうだ。
歩き出しながら、緑間が持って来た特製コロコロ鉛筆を桃井に渡すと、桃井は緑間の期待通りに3本のうちの1本を黒子に渡してくれる。

「人事を尽くした後に、どうしても回答が分からなかったときにはこれを使うといいのだよ」

緑間が得意げに鉛筆の薀蓄を語っていると青峰も近付いて来て、緑間と黒子の間に顏を出す。緑間は嫌な顔をする。

「オレにも寄越せよ」
「嫌なのだよ!」
「んだよ。ケチくせえなー。じゃ、テツ、それ、くれ」

即答で拒否した緑間に青峰は軽く舌打ちすると、黒子が桃井から分けてもらった1本を強請った。

「いいですよ」
「!!やる!やるのだよ!明日、やるのだよ!」

黒子があっさり、鞄に手を入れて、青峰に鉛筆を渡そうとするのを見て、緑間は思わず声を張り上げて、黒子に差し出した青峰の手をはたく。
青峰ははたかれた手の甲を摩りながら、「なんだよ、最初からそう言や、いーじゃねえか」と文句を言っているが緑間の耳には入らない。
元々は黒子に渡したかった特製鉛筆だ。
ゲーセンで別れてから、黒子に渡す鉛筆を用意して、黒子の自宅へ向かうことにしたが、昼間にボールに触れなかった分、黒子が公園に行く可能性も考えて、公園を覗いてから自宅へ向かうつもりだった。
黄瀬と青峰と出くわして、二人に黒子を探していた理由を問われたものの、本当のことは言えず、やむなく、ノートのコピーにお礼に桃井に持って来たと説明してしまったが、渡したかったのは黒子だ。
結果として黒子に渡せた緑間としては非常に満足だった。結果だけ見れば、この上なく自然な渡り方だったのではないだろうか。
ここまで来て、紆余曲折の末に黒子に渡せた奇跡の1本を青峰に取られてたまるか。
緑間は渋面を通り越して、凶悪な顔になっていたが、黒子はくすっと笑った。

「よかったですね、青峰君。緑間君もありがとうございます」
「ふん。お前にお礼を言われる筋合いはないのだよ」

黒子にふわっと花開くような柔らかい笑顔を向けられて、緑間は照れ隠しにお礼を拒絶するが、黒子には見抜かれているようで、更にくすりと笑われた。

「なぜ笑うのだよ。・・・お前とは本当に気が合わないのだよ」

2013年10月13日

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