寄り道 Side:黒子 01

ゲーセンで皆と別れて、黒子は桃井と二人で帰宅中。
女の子に囲まれて愛想を振りまいている黄瀬を見て、黒子の中にどす黒い感情が沸き起こり、当てつけるようにして桃井と帰ってきてしまったが、時間が経つにつれて、気持ちは後悔へと傾く。

(あれくらいで怒ってしまうなんて、ボクもまだまだ未熟ですね)

人気モデルなのだから、女の子たちに囲まれるなんてことは日常茶飯事のことで、黒子も慣れたもので、日頃はそれを目にして怒ることはない。むしろ、いつもは人の視線が集中する黄瀬に同情するくらいだ。

(黄瀬君と二人で寄り道したかったな)

心の内で思わず漏らした思いに、自分の気持ちに今更ながら気づかされた。
今日は練習が早く切り上がるので、二人でどこか寄り道してもいいと思っていた。
練習がある日はそうそう寄り道して帰るわけには行かない。せいぜい、皆と一緒にコンビニへ寄って、買い食いするのが精いっぱいだ。
皆でわいわいと帰るのも勿論楽しくないわけじゃなかったが、やはり、黄瀬と二人で帰りたかった。
自分で思っていた以上に黄瀬との寄り道を楽しみにしていたことに気が付き、素直になれずに黄瀬を置いてきてしまったことに落ち込む。
二人きりになって以降、心なしか桃井も言葉少なに歩いている。
黒子もついつい無言になりがちで、頭の中では黄瀬のことを考えてしまう。
あの後、黄瀬はどうしたのだろうか。黄瀬に限ってまさか女の子と何かあるとは思わないが、ファンサービスを心掛ける黄瀬は女の子を無下には扱えないだろうから、もしかすると未だにゲーセンに居るのかもしれない。
はぁ、と桃井には聞こえないように小さく溜息をついたときに、不意に馴染みの公園の入り口が視界に入る。

(そういや、今日はボールに触ってなかった)


**********


「帰ろうぜ」

青峰がもう興味を無くしたように言い捨てて、背中を向ける。
黒子も後ろを何度か振り返りながら、バスケットコートを後にする。後に残ったのは呆然と佇む5人の高校生。


青峰の捨て台詞の少し前。
段々、自宅に近付きつつある中、黒子の視界にバスケットコートを有する公園の入り口が目に入ると我慢し切れなくなって、黒子は桃井に黙って公園へと足を踏み入れた。
赤司から練習を見学するように言われて、今日はボールに触ってなかったことを思い出し、黄瀬と帰れなかった寂しさを紛らわすように、コートへと向かったのだったが、すぐにコートの手前で消えた黒子を慌てて探しに来た桃井に捕まってしまった。
桃井に言い訳をしているうちに、コートの中で名前は知らないが帝光中バスケ部の1年生が高校生5人に囲まれているのが目に入った。
腕力では敵わないのは分かっているが、黒子はそういう横暴を見て見ぬふりできない。
助けに入った1年生、桃井と黒子の3人で高校生5人にバスケ勝負の賭けを持ち掛けられたところで、青峰、黄瀬、緑間の3人が現れた。
3人が居て、そこに黒子が居れば、相手が何人でも負けるわけがない。切り上げた練習の足しにもならなかったとばかりにあっという間に相手の戦意を喪失させて、青峰が吐き捨てた台詞が先ほどのものだった。


そして、3人がタイミングよく、揃ってコートに颯爽と現れる10分ほど前。
公園の入り口で、青峰、黄瀬、緑間はばったり出くわしていた。
一瞬の間があった後、3人から出た言葉は

「何でここにいるっス!?」
「何でここに居るんだよ!?」
「何でここに居るのだよ!?」

異口同音に内容はほぼ一緒。
そして、揃って無言になる。互いの表情を探るように顔を見つめ合うと、青峰が最初に視線を外して、横を向いた。

「あー。オレはあれだ。テツが赤司にやるなと言われても、ボールを触らずに大人しく帰ると思えないから様子を見に来たんだ。赤司のことだから、触るなって言ったからには理由があるんだろ?」

面白くなさそうな顔で、小指で耳を掻いている。

「で、お前らは?」

顏を正面に戻すと疑わしげに緑間と黄瀬の顔を覗き込む。

「・・・オレは桃井にノートをコピーさせてもらったからな。そのお礼に特製『コロコロ鉛筆』を持って来たのだよ」

緑間も覗き込む青峰から視線を外して、眼鏡のブリッジを押し上げた。
青峰が視線を黄瀬へと移し、緑間も残る黄瀬へと視線を向ける。

「オレは二人で帰った桃っちと黒子っちが気になったっス」

爽やかな笑顔と共に告げると緑間は「意味が分からないのだよ」と顏を顰めて、青峰は「ふぅん」と含みのある返事を寄越した。
嘘はついてない。
勿論、桃井の黒子へのアプローチが気になるのは第三者の野次馬根性からではないが、緑間はそもそも気になる理由にも思い至らなかったようだ。青峰は黄瀬を見る目からすると何か感じ取っているのかもしれない。理屈じゃなく、感覚の男だから。
しかし、それ以上は青峰も突っ込むつもりはないようなので、とりあえず表面上はここへ来た互いの理由に納得して、3人でコートへと向かうことにした。
揃ってコートへと歩き出した際に、互いに見えないように不満そうな顔をしたのは言うまでもなかった。

2013年9月29日

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