寄り道 Side:紫原 01

黒子からまいう棒の新作にラー油トマトを見つけたと聞いて、紫原はとても欲しくなった。
帰りのコンビニで黒子も一緒に探してくれたが、まだ、一部の店舗にしか入荷していないらしく見つからなかった。
はぁ、がっかり。基礎練習だけだったけど、楽しみにしていた新作が見つからないとなると一層がっくりと力が抜ける。
コピー機の用紙切れで、他のコンビニを探すことを余儀なくされたコピー組の青峰と緑間はどこのコンビニに行くか相談しているが、紫原にはこれ以上無駄足を踏む気力は残っていない。余計お腹が空くだけだ。
桃井がここぞとばかりに、帰ることを提案していると黒子がぽつりと言った。

「ボク、ちょうどいい場所を知っていますよ」

そこはコピー機も景品として新作のまいう棒も置いてある穴場らしい。
黒子の言葉に紫原の顔が輝く。
紫原はこんな黒子の気遣いが好きだ。
決して押し付けはせず、こちらがしたいと思っていることをさりげなく提案してくれるので、嫌な気がしない。

高得点を出すとまいう棒の新作が景品としてもらえるゲーム機を黒子が教えてくれて、紫原も挑戦してみたが、元々ゲームが得意なわけでもなく、初めてやったD・D・R(ダンス・ダンス・ルンルン)には全然歯が立たなかった。
黄瀬が代わりに挑戦してみたが、こちらも全くダメだったが、黄瀬のロボットが足踏みするような動きはかなり笑えたので、がっかりした気持ちも少しは慰められた。
紫原が今日は諦めるしかないかなと思っていると負けず嫌いの黄瀬に火が点いたのか、D・D・Rに再挑戦すると言う。
黄瀬が隣でD・D・Rをうまくこなしている小学生のコピーをして高得点を叩き出したのに気づいたときには、黒子の姿は消えていた。
先程とは打って変わって高得点を叩き出しそうな黄瀬を見て、高得点では景品が変わってしまって、まいう棒ではなくなってしまうことを知っていた黒子はまいう棒がもらえるように、途中で他の筐体でD・D・Rをやっていたらしい。

「黒ちん・・・」

黄瀬が自分の努力の無駄を嘆いている横で黒子から手渡されたまいう棒の新作味、ラー油トマトはここまでの苦労もあってか、感動するほど美味しかった。
その後、紫原が飲み物を買いに行った間に黒子、青峰、桃井が何やら高校生と揉めていたり、黄瀬の提案によって、写真シール機で皆で写真を撮ったりとあっという間に時間は経っていて、青峰が帰ると言い出した。

「コピーもすんだし、オレは帰るわ」

「えー。もう帰るの」と思って、青峰の顔を見遣るとすっかり飽きた顏をして、横を向いて、頭なんか掻いてる。

「じゃあ、バイバーイ」

モヤモヤした思いを抱えながら、紫原も青峰に倣って、帰ることにした。


バスケの話になると黒子とは話が合うことはなかったが、バスケを離れれば、一緒に居て居心地がいいのは黒子だった。
たまに後ろからそっと忍び寄って、ぎゅっと抱え込んでみると、黒子は眉をハの字に下げて、嫌そうに言うのだ。

「紫原君、重いです」
「だって、ちょうどいいんだよ」

決まって、黒子に「何がですか?」と聞かれるが、答えたことはない。いつも、笑って誤魔化す。
小さい頃にいつも抱えていた熊のぬいぐるみのように、ぎゅっと抱えると柔らかくて、なんだかほっとする。
紫原にとっては、抱え込むのにもちょうどいい大きさだ。
それに、本人に言えば、顏を顰められそうだが、黒子からは綿菓子のように甘い匂いがするのだ。
一度、赤司に「黒ちんから甘い匂いがするの」と言ってみたら、片眉を上げて、しばし、紫原を見た後、「それ、皆には言うなよ」と言われた。
「なんでー」と片手に抱えたポテトチップスをぱりぱりと食べながら、疑問を口にしてみたが、赤司はすっと視線を伏せて、涼やかに笑って、「何でもだ」と答えてくれなかった。
そして、「それから、いい匂いだからって、テツヤを舐めたりしちゃダメだぞ」と釘を刺された。
ちょうど、「今度、舐めてみようかな」と思っていたところだったので、「はーい」とだけ返事をした。

(もう少し、黒ちんと居たかったなー)

そんなことをつらつらと考えながら、駅へ向かう途中でいいことを思い付く。
もっと探せば、既に新作まいう棒を店頭に並べているコンビニもあるのではないだろうか。
見つけて、黒子に持って行って、一緒に分け合ったら、きっと楽しい。
いつも眠そうにしている半眼を心もち見開いて、今日はまだ行っていないコンビニで一番近い店に行こうと方向を変えた。

2013年8月22日

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