寄り道 Side:緑間 01

試験前ということでバスケ部の練習も基礎練習だけで終わりとなった。
練習を終えて、ロッカールームへと引き上げる際に赤司が黒子を呼び止めているのが目に入った。
日頃から何かと気が合わない黒子だが、全く気にならないというのは嘘になる程度には黒子のことが気になる。
1年が片づけている途中の足元のボールを拾う振りをしながら、二人の会話に耳をそばだてる。

「今日は桃井と一緒に帰るんだ」

短く簡潔に黒子に指示を伝える赤司の言葉が耳に入る。
黒子が理由を尋ねているようだが、赤司はもう一度同じ言葉を繰り返しただけだったので、黒子もそれ以上は訊かずに了承の意のみ伝えたようだった。
赤司が満足げに口元だけで薄く笑って、黒子から離れるのが目に入った。

(ほう)

気になる。
赤司の指示には必ず意味がある。
多くを語らない赤司には問い質しても、桃井と一緒に帰るように指示した理由は明らかにならないだろう。
あっという間に会話を終えて、赤司は既にコーチと話していて、黒子は早々に体育館から姿を消している。既にロッカールームへ向かったのだろう。
これ以上留まる理由がなくなった緑間は、赤司からは一緒にコーチと打ち合わせをするようにも特に言われているわけでもないので、自分もロッカールームへと引き上げる。

ロッカールームでは既に着替え始めている他の面々が揃っていた。
黄瀬がなにやら喧しく黒子に食って掛かっている。「なんでスか?」「分かりません」と会話の切れ端が聞こえてくる。
そこへ紫原が着替えもせずに、ロッカーに常備してあるスナック菓子をぽりぽり食べながら、口を挟む。

「黒ちんは桃ちんと帰るんだよねー?」
「さつき?あいつに今日、ノートコピーさせてもらおうと思ってたんだよ。オレも一緒に帰る」

そこへ着替えの手を止めて、青峰が会話に入ってきた。

「えー。じゃ、オレも一緒に帰ろうかな。コンビニに寄るんでしょ?黒ちんの言ってた新味があるかもしれないし」

ロッカー前に置かれたベンチに座って菓子を頬張りながら、紫原もへらっと笑う。

「皆で寄り道して帰るっス!」

全く騒がしい。
緑間は着替えの手を休めずに、手際よく帰る支度を整えていく。おかげで、後からロッカールームに来た割には早く着替え終えて、早々に着替え終えた青峰がロッカーを出るのとほぼ同時だった。

廊下を青峰と前後しながら歩いて行く。
途中、「たりーな」とか、「ノート貸せよ」という青峰に適当に返事しながら、下駄箱で靴に履き替えて、校庭へと出た。
不思議な組み合わせでの道中だったが、校門のところまで来て、ノートを借りる相手の桃井を待つ青峰同様に校門で立ち止まった緑間を青峰はじっと見た。

「・・・・・」
「なんだ?」

しげしげと見てくる青峰に緑間は眉間に軽く皺を寄せて、眼鏡のブリッジを押し上げながら問い質した。

「お前も行くの?」

ポケットに手を入れたまま、半ばずり落ちかけた体で鞄を肩から掛けて、青峰は不思議そうに訊いた。

「あぁ」
「なんで?」

すぐさま、再度問われたが、今度は無視する。
なぜ、黒子が桃井と一緒に帰る必要があるのか気になる。
気にはなるが、あからさまに黒子を気にしているのは悟られたくない。
そもそも、緑間自身もなぜ気になるのか、自分でも理由ははっきりしないのだから、説明のしようもなかった。

(今日のかに座は黒子のみずがめ座と相性がいいのだよ)

明らかに取ってつけた理由なのは自分でも分かるので、青峰には言わない。
青峰の問いに黙った緑間を怪訝そうな顔で青峰が見ているのに気付いたが、緑間は黙って聞き流す。
奇妙な沈黙が訪れたが、その沈黙はすぐに凛とした声に破られる。

「お前たちも居たのか」

赤司の登場だ。
そのすぐ後ろには菓子袋を片手に口をもぐもぐ動かしている紫原も一緒だ。
そして、やはり、そのすぐ後ろには黒子に纏わりついて、黄瀬もやって来た。
あっというまに騒がしくなる。
程なくして現れた桃井は黒子以外にも人がいるのを見て、明らかに落胆した顏を見せた。

「・・・・・・・もしかして、みんな一緒に帰るの?」

心もち俯いた顏で視線だけ上目使いで皆の顔を見た。
桃井のノートをコピーさせろという青峰、寄り道を主張する黄瀬、コンビニまでは同行するという紫原。それぞれがそれなりに黒子たちと一緒に帰る理由を口にするので、緑間も何か言わなくてはと思ったが、皆に向かって言うほどのうまい理由が見当たらなかった。

「一人で帰るつもりだったが、気が変わった。途中まで同行する」

他のメンバーほど理由にならない理由を挙げた緑間に、皆の視線が一瞬集中したような気がしたが、眉間にいつもより一層深い皺を寄せた顏が余程不機嫌そうに見えたのか、誰も突っ込まなかった。
皆が付いてくると分かった桃井が露骨にがっかりした顏をしているうちに、赤司は寄り道するなとだけ言い残して、自分はさっさと帰ってしまった。

2013年9月2日

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