寄り道 Side:黄瀬 03

心の中で半泣きになりながら、それでも「撮ったことない人いるんじゃないスか?」と食い下がると黒子が「ボクは撮ったことがありません」とようやく少しだけ、靡いてくれた。
そこに桃井が乗り、黄瀬も後押しして、渋々ながらも青峰が撮ることに同意すると、残る者も次々に撮ると言い出した。

(まったく素直じゃないっス)

黒子が撮ると言った途端に、それまで否定的だった男どもの目の色が変わったことに気付かない黄瀬じゃない。
そわそわと撮りたそうだったのは一目瞭然だ。

(・・・これだから)

緑間たちの露骨な態度の変化に呆れながらも、皆でブースに入ってみると、図体の大きい男が4人も居るので、狭いブースが更に狭くなった。

ブースの中では黒子の両肩に手を掛けて、ぴったり寄り添う桃井に心中穏やかではなかったけれど、あまり露骨に黒子と桃井の間に割って入るわけにはいかなかったので、ぐっと涙を飲んで堪えたが、心の中では「そんなに近付いちゃダメっス」と大絶叫。
秘めた恋愛の辛いところだ。
仕方がないから、せめて、桃井の反対側はキープしたいと隣を確保したはずなのに、シャッターを切る瞬間に一番離れたところにいたはずの青峰の左手が伸びてきて、無理やり黒子から引き離された。
青峰も桃井に追い払われて、黒子の隣を取れなかったのが悔しかったらしい。
撮る前に「テツの相棒はオレだから、オレの隣に」と主張していたが、桃井に「青峰君は大きいんだから、前に来たら、私が隠れちゃうからダメ」と一蹴されていた。
ぐっと二の句が継げなくなった青峰は何とも言えない悲しそうな顔をして、さすがの黄瀬もちょっと同情した。

(だからって、何もオレに当たらなくてもいいじゃないスか)

出来上がった写真シールは、桃井がちゃんと切って、後日、配ってくれるしい。
黒子と二人きりの写真でないのが残念だが、一緒に写っているのは素直に嬉しい。
写真を撮り終わったところで、青峰が帰ると言い出した。
いつも、「テツ」、「テツ」と自分の嫁のように呼んでは所有権を主張したがるので、今日も一番の難関は青峰だと思っていた。
本当に桃井のノートだけが目的で、帰って少しはテストに備えなければならない程まずいのだろうか。
少し疑問に思わなくもなかったが、ゲーセンではぐれることができなかった以上、残りの帰り道は人数が少ない方が撒き易い。
青峰が帰ると言い出したことで、緑間も紫原も帰ると言うので、素直にそのままお帰り頂くことにした。
後は、どうやって、桃井を撒くかと考えながら、前を歩く黒子と桃井から数歩遅れて、出口を目指していると、突然、女の子の集団に取り囲まれた。
少し前に黄瀬がファンサービスと言って、次々と女子集団と写真を撮っていたのを見て、「自分たちも」と声を掛けて来たらしい。

「え。あ、あの・・・今日はもう」

さすがに後は断ろうと言葉を探していると、前を歩いていた黒子と桃井が振り返った。

「黄瀬くん、ダメですよ。これもファンサービスですよ」
「・・・・・!」

勢いよく黒子に目を向ければ、目が笑ってない。
知らぬ者にはいつもの無表情で淡々とした物言いに聞こえるかもしれないが、黄瀬には分かる。

(怒ってる!?)

「さすが黄瀬くん。女の子に人気ありますね」
「そうね。きーちゃん、黙っていれば、王子様だから」

動揺する黄瀬を後目に、黒子と桃井は顏を見合わせて頷き合っている。

「黄瀬くん。それじゃ、また明日。行きましょう、桃井さん」
「うん。じゃあね、きーちゃん、頑張ってね」

黒子の機嫌をどう取るべきか黄瀬があたふたと言葉を探しているうちに、無情にも黒子の口からは別れを告げられた。しかも、黄瀬を置いてかえるだけでなく、桃井と二人で。
黒子と二人きりになる嬉しさを隠し切れない桃井は黄瀬に助け舟を出す気など欠片もないようで、輝くような笑顔で手を振った。

「・・・あ」

黄瀬は「待って」と黒子の方へ手を伸ばしたが、黒子の後姿は取りつく島もなく、力なく腕は下がった。

(でも、でも。あれってヤキモチっスよね。かわいーなー)

黒子と桃井が黄瀬の視界から消えて、意気消沈したのも束の間、黄瀬は一転、目じりを下げてにやける。
黒子に置いて帰られたのも、桃井と二人というのも堪えるが、黒子の怒りの原因が女の子に囲まれた黄瀬に対するヤキモチだと考えると、これは相当嬉しい。
いつもは涼しい顏した黒子がヤキモチを焼いて見せるなんて、滅多に見られない。
そう思って、黄瀬の頬はだらしなく緩んだが、取り囲んだ女の子たちには優しい笑顔に見えて、更に心ときめかせたのだから、欲目というのは恐ろしい。

(早く二人に追い付かなくちゃ)

女の子たちに連れて行かれながらも、黄瀬は頭の中で女の子達との撮影会を早く切り上げることを考え始めた。

2013年7月20日

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