Stay with me -on Christmas day 04-

「か、隠してなんかいないよ!?」
「隠していたんだろう!?そこだけ言わないのはおかしいじゃないか」
「隠していたわけじゃないよ・・・言わなかっただけだよ」
押し出されるように英二の口から出た言葉にアッシュは瞳を一瞬見開くと再び顔を背けた。
「・・・あぁ、オレたちには関係ないことだからな」
「!」
勝手に自己完結して話を終わらせようとするアッシュに英二は反射的にムッとしたが、視線を外したアッシュの瞳を縁取るまつげが細かく震えていることに気づき、急速に思考が冷えていく。
心の中で軽くため息をついて、苦笑する。高いIQを誇る頭脳で巨大な組織を相手にした駆け引きでは一歩も譲らない君がこんなことも分からないなんて。
自分のことを好きになれないアッシュはちょっとしたことで英二に対する自信を失ってしまう。
以前は自分の気持ちが伝わってないことにショックを受けて悲しい思いをしたこともあったが、アッシュの繊細な心を理解している今の英二はもう簡単に傷ついたりしない。
「僕の想いが伝わってないなんて」とまだ少し傷つくのも事実だが「ここは年上の余裕だ」と自分に言い聞かせてアッシュに声を掛ける。
「アッシュ、僕は君と過ごすクリスマスを楽しみにしているんだよ?」
英二はテーブルから身を乗り出し、両手でアッシュの頬を包み込み、横を向いてしまった顔を優しく自分に向けた。
「・・・そんなこと、知っている」
一呼吸の沈黙の後、一言吐き出すと視線はまた英二から外れて行ってしまう。
英二は今度は実際に「はぁ」とため息をついて、アッシュの頬に添えたままの手に力をこめて、アッシュの顔をもう一度自分に向ける。
「もう。楽しみにしているのは日本式のクリスマスだよ?」
英二は更に身を乗り出してアッシュの顔に自分の顔を近づける。深く黒く輝く瞳でアッシュの瞳を覗き込む。
「アッシュ、意味、ちゃんと分かってる?」
アッシュの瞳に映った英二の顔が再び赤みを帯びていく。
朱に染まった頬で英二が続ける。君の心に届きますように。届くまで何度も伝えるよ、と気持ちを込めて。
「だから、そんな不安にならなくても、大丈夫だよ」
アッシュの顔をそっと引き寄せてアッシュの唇にそっと口づける。
気持ちを伝えたくて頑張ったが、さすがに自分から、というのはまだまだ恥ずかしい。
不安に揺れていたアッシュの澄んだ翡翠色の瞳がさざ波が引いていくように穏やかさを取り戻していく。
「・・・誰が不安になんか!」
たっぷりの沈黙の後、両手で挟み込まれた顔を背けてアッシュが立ち上がる。
「アッシュ!?」
「・・・手を洗ってくる!」
がたんと音を立てて椅子を引いたままリビングから出ていく。
「あーあ。意地っ張りだなぁ」
苦笑しながら、すっかり冷めてしまったココアを温め直そうと英二も立ち上がる。
「恋人じゃなかったら、あんなことしないよ」
少し尖らせた唇に人差し指をそっと添わせると赤く染まった目元で小さく呟いた。
アッシュの足音が再びリビングに向かって近づいてくるのが聞こえた。

2018年12月14日
もう少し続くという...

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