Stay with me -on Christmas day 03-

「で、いったい何があったんだい?」
アッシュからマックスとの話を聞かせてもらったり、夜にはロックフェラーセンターのツリーを見に行きたいなんて、散々喋り倒した後、英二は唐突に切り出した。
「何が・・・って?」
追及はすっかり終わったのだと油断していたところに再び切り込まれて、アッシュは動揺する心を押さえつけ、何気ない風に聞き返した。
「なんかあったんだろう?帰ってきたときから表情が冴えないよ」
「冴えないとか失礼なことを言うなよ」
アッシュの言葉に自分の言い方が思いのほか失礼だったことに気づいて英二はくすっと笑ってアッシュを見返した。
「ごめん。でも、何か気になっているんだろう?話している間も何か気に掛かっている、って顔してるよ?」
英二は言葉を一旦切った後にアッシュがまだ口を開かないのを見て言葉を続けた。
「僕にも教えてよ。君が何を気にしているのかを」
アッシュを覗き込む黒曜石のようなきらきらと光る黒い瞳に「絶対聞き出すぞ」という強い英二の意思を感じて、アッシュは諦めたように「ふぅ」と息を吐きだし、言葉を選びながら切り出した。
「英二には隠せないな。・・・そんなに顔に出ていたか?」
「少しね」
「オレもまだまだだな」
英二が嬉しそうに口の端を上げる一方でアッシュは自嘲的な笑いを浮かべた。
「たいしたことじゃないんだ。・・・英二、日本のクリスマスはなんだっけ?」
「?」
アッシュが気になっていたことを教えてくれるのかと思って期待していた英二は首を傾げた。
「日本独特のクリスマス。クリスマスケーキ、あぁ、イチゴが載っているんだよな。あと、フライドチキン、お前が教えてくれたんだ」
「うん」
「でも・・・」
伏し目がちになりながらも目元を嬉しそうに細めて大切そうに挙げたが、次の瞬間、綺麗な緑を覗かせていた瞳が伏せられた。
「他にもあるだろ?」
「他にも?」
英二が不思議そうに聞き返すと、アッシュは顔を上げて英二を見つめた。
「クリスマスに帰省しない日本人は誰と過ごすんだ?」
皮肉げに歪められた口元が弧を描いた。
「・・・あ。・・・意地悪だな」
アッシュの言葉が何を指すのか思い至った英二は頬を膨らませて上目遣いにアッシュを睨んだ。
「日本のクリスマスは恋人と過ごすんだろ?」
アッシュはそっと目を伏せるとすっと視線を英二から逸らした。
「・・・誰に聞いたのさ?」
上目遣いにアッシュを睨んだままの英二の頬には朱が差している。
「・・・マックス」
「えぇ!?マックス、そんなことよく知っていたねぇ」
頬に感じる熱を誤魔化すように英二は愛想笑いでアッシュの問いをはぐらしたが、アッシュの顔に影が差していることに気づいた。
「・・・アッシュ?」
様子がおかしいアッシュに理由が分からない英二は声を掛けた。
「・・・そんなことが気になっていたの?」
「別に気になってなんかいない」
「気になっているんだろう?・・・ごめん。でも、なんで?」
即答で気にしていないと答えるアッシュに英二はアッシュの不機嫌な理由が分からないことを告げた。
「じゃあ、オレも聞くけど、なんで隠すんだ?」
他所を向いていたアッシュが英二の言葉に反応して勢いよく振り向いた。

2018年12月01日

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