Stay with me -on Christmas day 02-

がちゃり、とリビングのドアが開き、英二は読んでいた雑誌から顔を上げた。
「あ、お帰り、アッシュ。外は寒かったろう?ホットココアでも淹れようか?」
英二が雑誌をローテーブルの上に置いて腰を上げるとアッシュは着ていた上着をばさっとソファに投げかけた。
「外、寒かった?」
「...いや、そうでもない」
英二はアッシュの顔を見て声を掛けた。
リビングに入ってきたアッシュの顔はやや陰が差したよう表情が暗く見えた。
今晩はホワイトクリスマスになるのではないかとテレビで言っていたので、きっと外は寒かったのだろうと思い、英二は室内の温度を上げるべく、壁に備え付けられた暖房のダイヤルを大きく捻った。
「すぐに淹れるから上着は向こうに掛けてきなよ」
「あぁ」
言葉少なく応えたアッシュに体が温まるようにと英二はキッチンへと向かった。

「アッシュ、ちょうどココアが入ったところだよ」
上着を寝室に備え付けられたクローゼットに置いたアッシュがリビングに戻ると英二が手にした色違いの揃いのマグカップをテーブルに置くところだった。
「英二、マックスから預かってきた」
差し出された手に海を渡ってやってきた手紙は少し疲れたようにへたった感じになっていた。
「ありがとう。わぁ、伊部さんからだ」
手紙の封を開けるためにハサミのしまってある引き出しに英二は向かい、封筒にハサミを入れた。
がさがさと音を立てて、封筒から手紙を出しながら英二がテーブルに戻ってきた。
「なんだ、君も早く座って、ココアで体を温めなよ」
視線は手にした手紙に落としながら、自分も椅子に腰かける。アッシュが椅子を引く音が聞こえる。
「イベはなんだって?」
「危ないところに一人で行くな、とか。僕の心配ばかりが書いてあるな。ふふっ。最後は風邪引かないように暖かい恰好をしろとか、まるでお母さんみたいだ」
「・・・心配性だな」
一通り手紙に目を通した英二は顔を上げるとアッシュのココアに手が付いてないことに気が付いた。
「アッシュ、飲まないの?まだ、熱いかな?」
「あ、あぁ」
アッシュがようやくマグカップに手を伸ばし、熱さに注意しながらカップを傾けた。
「・・・まだ寒い?」
「いや、なぜ?」
「・・・まだ少し顔色が冴えないかな、って」
帰宅してからしばらく経つのにアッシュの表情は暗いように見えた。寒さだけのせいではなかったのかもしれない。
「なんかあった?」
「いや、何もない」
英二が心配していることに気づいたアッシュは少し目を伏せると口元に笑みを作って、表情に差してした影を追い払ってしまった。
「何かあったんだろうな」と英二は気づきつつも、こういうときのアッシュは容易に思っていることを出してくれないのは分かっているので「追々聞き出してやるからいいさ」とそっと心に決めて、マックスの話をし始めたアッシュに笑顔を向けた。

2018年7月9日

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