Stay with me -on Christmas day 01-

「おっさん」
ばさっとテーブルの上に数枚の束が放り出された。
「助かったぁ」
すっかり成人した男性、しかも、どちらかと言えばいかつい体躯のマックスが情けない声を出しながら、投げ出された紙に飛びついた。
手にした紙に頬ずりでもしそうな勢いだ。
「いきなりコラムを書けと言ったと思えば、2日後のクリスマス迄に持って来いなんて、よく言えたな」
紙を抱えて「助かった。助かった」と繰り返すマックスにアッシュは冷ややかな視線を投げ掛けた。
「仕方ないだろう。予定していた取材が先方の都合で延期になったんだ。今回、それなりにページをもらっていたから、自分で穴を埋めるにしても、ちょっとしんどくてな。本当に助かったよ。持つべきはできのいい息子だな」
「もう息子は止めたはずなんだけどな」
「そう言うなよ」
「うるせぇ」
歯を見せて笑うマックスにアッシュが軽口の応酬をしていると、マックスはふと思い出したようにテーブルの上に積み重ねられた雑誌やら書きかけの原稿やら雑多なものが積み重ねられたものの中から一つの封筒を抜き取るとアッシュの方へ差し出した。
「伊部からだ。英二に渡して欲しいとさ」
「あぁ。伊部は元気にしてるのか?英二のことが心配で日本にいても気が気じゃないんじゃないか」
差し出された封筒を受け取りながらアッシュはにやりと笑った。過保護なくらいに英二のことを気に掛けていた伊部のことだから、英二を置いて帰国するのは後ろ髪引かれる思いだっただろうことは想像に難くない。
「そんな意地悪そうに言うなよ。英二の様子を見にがてら、クリスマスにこっちに来ないか誘ったんだけどな。クリスマスだから別な機会にするとさ」
肩をすくめて伊部に断られたと説明するマックスにアッシュは不思議そうな顔をした。
「なんで?こっちで楽しめばいいだろう?日本人はチキンにケーキなんだろ?」
「あれ、カードは書かないんだったかな」と指折り、記憶を辿るアッシュを見ながら、マックスはふと胸にこみ上げてくるものを感じた。
英二から聞いた日本のクリスマスを少し得意げに語る姿はひどく穏やかで、アッシュが満たされているのが伝わってくる。
「おっさん?聞いてるのか?」
思わず目を伏せたマックスがアッシュの声に我に返り、目を開けると軽く眉間に皺を寄せ、顔を覗き込んでいるアッシュが目の前にいた。
「あ、あぁ、すまん」
「なんだよ、せっかく説明してやっているのに。もう、モーロクしてるのか」
「“親父”は色々考えることがあるんだよ」
アッシュの言葉に先程までの感慨も吹き飛ばされ、マックスが言い返すとアッシュが話をもとに戻した。
「だから、こちらでクリスマスを楽しめばよかっただろ、って話」
思わず小さな声で「英二も喜ぶだろうし」と付け加えたことは幸いマックスの耳には入らなかったようだ。
「ん?オレもそう言ったんだけど、恋人にまたクリスマスにいないのかって言われるとかなんとか言っていたぞ」
「恋人?なんだ、それ?」
説明するマックスも不思議そうに伊部の言葉を伝えるとアッシュも怪訝な顔で聞き返した。「なんでも日本のクリスマスは恋人と過ごすのが定番とかなんか言っていたぞ」
「・・・・・ふぅん。その話、面白そうじゃないか。もう少し聞かせろよ」
少し間が空き、アッシュの声色が変わったことにマックスが気付いた頃にはマックスならよく知っているアッシュの怖い笑顔が自分の方を向いていた。

2018年1月5日

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