Secret present 02

「えぇ!?アッシュの家庭教師だったんですか!?」
「そうだよ。まだ、こーんな小さいときからね」
ブランカが教え始めた頃のアッシュの身長を示して、右手を水平に高さをかざすと向かいの英二が目を輝かせる。
「わぁ。小さかったんですね、って、そりゃ、そうだよね。かわいかっただろうなぁ」
「そうそう。まだかわいかったんだよ」
「はっ」
目を細めて英二に相槌を打つブランカに背を向けて、アッシュは面白くなさそうに息を吐き出した。
アッシュが二人分のサンドイッチをオーダーしようとしたところでブランカが自分の分もオーダーして、驚いているうちに支払いも済み、気がつくと、木の下の備え付けられた木のテーブルを挟んで三人でランチということになっていた。
少し大きめの丸いテーブルいっぱいに三人分のサンドイッチと飲み物が入ったカップが所狭しと置かれている。
アッシュの前には既に食べ終わって丸められた包み紙が転がっている。
アッシュの幼い頃の話で盛り上がる二人を時折横目で見ながら、椅子の背もたれに背中を預けて、面白くなさそうな顔ですっかり氷が解けて薄くなったコーラをずずっと吸い上げた。
べらべらと話す内容にはたいして興味はなかった。むしろ、思い出したくない記憶まで呼び起こされて聞きたい気はしなかったが、ブランカの話を聞いている英二が気になり、意識は二人の会話に捕らわれていた。
「へぇ。これからフェリーに乗りに行くの?」
「そうなんです。今日はアッシュの誕生日だから、二人で出掛けようと思って」
「誕生日・・・そうか。今日は8月12日だったね」
「はい」
頬を上気させて嬉しそうにする英二にアッシュが優しい眼差しを向けていると不意にブランカと目が合った。
「どおりでアッシュの頬が緩んでいたわけだ」
「緩んで、って、そんな」
ブランカの言葉に英二がくすっと笑うとブランカはちらっとアッシュを見て、少し人の悪い顔で笑みを浮かべ、ぐっと英二に顔を寄せた。
「緩んでいたさ。君たちを遠目に横から見ていたら、すっかり目じり下げて。あんなじゃ、急に襲われても君を守れるのか、甚だ疑問だな」
「目じりの下がったアッシュ・・・。ちょっと想像つかないなぁ」
「英二、まともに聞いてんじゃねえぞ」
アッシュは向こうを向いたままでブランカの言葉に被せてくる。
「今日は誕生日で君と出掛けるから、殊更嬉しいんだろうな」
「ちょっとよく分からないです」
苦笑する英二にブランカは余裕の顔で続ける。
「アッシュのことは小さいときから見てるからね、なんでも分かるんだよ」
「何でも・・・ですか?」
「そう。なんでも。そうだな。今は不機嫌を装ってああして向こうを向いているけど、私たちの会話に興味深々で特に君の反応が気になるようだ」
英二は黒い大きな目でアッシュをじっと見つめると今度はブランカの顔をじっと見た。
「ん?どうかした?」
「あ、いえ」
口元で笑って首を振ったが英二の眉は少し下がっていた。
つい先ほどまでアッシュの話をもっともっとと大きな黒い目を輝かせていた英二は心なしか元気をなくしたような笑顔でアッシュに声を掛けた。
「アッシュ、そろそろフェリーに乗りに行こうよ」
「ん?」
もっと二人が話し込むのかと思っていたアッシュは意外そうな顔で英二を見たが英二の前のストローの刺さったカップを掴むとすぐに立ち上がった。
「あぁ、行こうぜ。じゃあな、ブランカ。悪い事してんなよ」
「失礼だな。またな、アッシュ。英二くん、またね」
アッシュの軽口に肩をすくめた後、二人に手を振った。

2018年8月11日

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