Silent Night 03

英二が思いもよらなかった3人からのプレゼントに何と言葉を返したらいいのか分からず、アレックスの名前を呼んだきり、黙ってじっと目を見ていると不意にそれまで黙っていたアッシュが口を開いた。

「貰えないな」
「ボス!」
「アッシュ!」

冷たく響いたアッシュの声に英二は抗議の声、アレックスたちは悲痛な声を上げてアッシュの方を見遣ったが、4人はアッシュの顔を見て、ほっと息を吐いた。
アッシュは行儀悪く椅子に片足を上げて座ったままで、言葉は冷たかったが、横を向いてしまった顏は幾分頬が染まっているように見えた。

「アッシュ・・・」
「貰えるわけないだろう?手下が食うものまで削って稼いだものを貰うわけにはいかないな。それはお前たちで行けばいい」

極力抑えた声音で冷たく言葉を吐き出すが言葉には自分に向けられた好意に対する戸惑いが混じっていた。

「ボス・・・」

3人が困った顔で黙ってしまう一方で、英二は手にしていた封筒と紙をそっとテーブルへと置くと、すうっと目を細めて、テーブルを回り込んでアッシュの下へと近寄った。

「?」

取り残された3人が何をするのかぼんやりと見ていると、すっと手を伸ばすと止める間もなく、アッシュの鼻をぎゅっと摘まんだ。

「!?」
「あぁっ!?」
「ボス!?」

驚いて固まる3人を余所に英二は両手を腰に当てて、アッシュの鼻を摘まんだまま、子供を叱るようにアッシュの目を見て叱った。

「アッシュ、ダメじゃないか。君にそんなことを言われたら、3人とも何も言えなくなっちゃうよ。ありがとう。ありがたく貰うよ」
「お前っ、何を勝手なことを!」

ようやく離されたものの、英二に摘ままれた鼻に手を当てたまま、驚いた顏で英二を見上げていたアッシュは英二の言葉に抗議する。
アッシュの抗議を全く意に介さずに英二はアレックスたちににっこりと笑顔を向けた。

「特に何もしていない僕が貰うと言うのは、本当は気が引けるんだけど、せっかく用意してくれたんだよね。ありがたく、貰うよ。その代りにまたご飯食べに来てよ」
「英二・・・」

英二の言葉に感じ入る一方で、やはり自分たちのボスの判断が気になるようで、ちらちらと目だけでアッシュの様子を窺ってる。ボーンズに至っては英二の優しい物言いに涙目になっている。

「ね、ありがたく頂こうよ、アッシュ」

椅子に両手を掛けて背後から覗き込んだ英二にアッシュはそれまで何か言いたそうに口を開いたり閉じたりしていたが、英二と目が合い、互いをじっと見つめ合った後にふんと鼻を鳴らすとやはり顏を背けたまま不貞腐れたように言い放った。

「代わりじゃなくても、いつも来てるじゃないか」

そう言ったと思うと、急に椅子から腰を上げると、アッシュの一挙一動に注視したままの3人を後にリビングの出口へと向かった。
そして、ドアを開けて出て行きざまに振り返った。

「オレが不在の間に揉め事起こすなよ」
「ボス!」

ぱぁと顏を輝かせて、3人は互いに顏を見合わせた。英二を見ると、アッシュの言葉に苦笑して肩を竦めた。

「素直じゃないよね」



アッシュのアパートからの帰り道。
3人は英二に助けられたばかりでなく、ほっとしたのか、アッシュが部屋から出た直後、ぐぅとお腹を鳴らせたコングに英二は吹き出すと、笑いながらキッチンへと入って行き、簡単に食べられるものを用意してくれた。

「ほんと、うまかったな〜」

幸せそうな顔で腹をさするコングをボーンズが小突く。

「冬眠明けの熊みたいに食いやがって!最後の方はさすがに英二も呆れていたじゃねぇか」
「熊とはなんだ!」

コングがボーンズの首に両手を伸ばして、締め上げる振りをする。

「お前ら、往来だぞ。止めておけよ。それにしても、英二はすげぇなぁ。あのアッシュ・リンクスを黙らせしまうんだぜ?」

笑って二人のじゃれ合いに釘を刺したアレックスは両手をポケットに突っ込んだまま、咥えタバコで英二への感心を口にした。
コングに首に両手を掛けられたまま、ボーンズがふと疑問を投げかける。

「でも、あんなボス初めて見たよね・・・」
「あんな?」

心もち背中を丸めて先を歩いていたアレックスがボーンズを振り返る。コングも揺すっていた手を止めてボーンズを見た。

「ボスの鼻を摘まんだ英二にも驚いたけど、その後の驚いた顏のボスにも驚いたな」
「あれには肝冷やしたぜ」

英二の行動を思い返し、コングがぶるっと体を震わせる。アレックスもしみじみ呟いたボーンズに同意する。

「オレも驚いた。でも・・・」
一旦言葉を切って、空を見上げて呟いた。

「悪くないとも思った」
「オ、オレも!」
「オレだって!」

アレックスの言葉にボーンズとコングの二人も声を合わせた。

「だよな。英二といるときのボスの空気、嫌いじゃないな」

にかっとアレックスが笑い、二人もうんうんと同意する。

「でも、懐、寂しくなったなぁ」

とボーンズが言えば、コングも

「オレも。お腹空いたなぁ」

と続けては、ボーンズに「お前はさっき食ったばかりだろ」と足蹴にされて、コングもやり返す。
そんな二人を優しい目で見ながら、アレックスは手にしたタバコで前方を指す。

「オレたちがボスの留守をちゃんと守らねぇと、ボスも落ち着いて休めねぇよ。もう少し飲みに行こうぜ。少しなら出すぜ?」
「う、うん!」
「おぅ」

嬉しそうに先に歩き出した二人の背を見ながらアレックスは心の中で呟く。

(いい休暇になるといいな、ボス)

2013年12月22日

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