Silent Night 02

「あれ、皆、なんか少し痩せた?」

英二がテーブルにホットココアの入ったマグカップを置きながら、首を傾げて訊いて来た。
12月に入ろうかという頃にたまり場にしているドーナツショップで“作戦会議”をしてから、約1か月。

「はは」

ボーンズの乾いた笑い声に一層不思議そうな顔をした英二だったが、アッシュがリビングに入ってきたので顏を入り口へと向ける。

「あ、ボス」

アッシュの姿を見て、3人は座っていた椅子から腰を浮かす。
履いているのはいつもの膝の擦り切れたジーンズなのだが、金髪が映えるような黒のローゲージのニットを無造作に着ただけで、様になっているのが羨ましい。
リンクスのたまり場ではTシャツにファーの付いたブルゾンを羽織っただけだったりとラフな格好で現れることが多いが、高級アパートのここでは少し装った格好をしていることが多い。特に服に気を遣っているわけではないのだろうが、土台の造作がいいだけにちょっと違うものを着ただけで、その辺のモデルも顔負けの雰囲気を漂わせるのだから、これでストリートギャングのボスだなんて思うわけもない。

「で、今日はなんだって?」

しなやかな動作でリビングの椅子へ腰掛けると、アッシュがリビングへ入ってきたのを見て新たに淹れたコーヒーを英二がタイミングよく置く。

「サンキュ」

英二に軽く礼を言って、マグカップへと唇を寄せる。猫舌のアッシュに合わせられているのか、そのまま一口喉へと流し込む。

「で、何があったんだ?」

マグカップを再度、口元に運びつつ、斜向かいに座ったアレックスへすっと視線を送る。
英二の料理を目当てにアレックスたちがアパートまでやって来ることは少なくないが、来るなり、書斎にいるアッシュにも声を掛けて欲しいと言うので、アッシュも何か問題があったのだと思ったらしい。眉間には少し皺が寄っている。
ストリート・キッズ同士の抗争のことなら、自分は聞くべきではないかな、と英二がそっとテーブルから離れようとしたところで、アレックスが口を開いた。

「英二、お前もここに居て欲しいんだ」
「?」

英二を引き留めたアレックスにアッシュも片眉を上げて怪訝な顔をした。

「おい」
「あっ、あぁ、うん」

アレックスが隣に立つボーンズの脇を肘で付くと、ボーンズが慌てて、穿いていたオーバーオールの前ポケットに手を入れて、何やら封筒らしきものを取り出した。

「これは?」

英二が手を差し出して、少し皺の寄った封筒を受け取った。裏へ表へと両面を見て、不思議そうにした英二にボーンズが開けて中身を見るように促した。

「あ、うん」

その間、アッシュもテーブルを挟んで座ったまま、封筒を開ける英二の手元に注目している。この歳の男性としてはやや華奢に見える指先が封筒の中から、1枚の紙を引き出した。

「これは?」

英二が黒い瞳を瞬かせながら、訊いて来た。訊きながらも目は書かれた内容を見ようとして、手元の紙に向けられたままだ。

「あ、あの、それは」

言い掛けてボーンズは困った顔をして、隣のアレックスを見上げて助けを求めた。

「これ・・・」
「それはホテルの宿泊券だ」

予想しないものが出てきたことでアッシュの纏う空気が緩む。
英二が紙の内容を理解して顏を上げて意図を訊こうとしたのと同時にアレックスが言葉を被せてきた。

「マンハッタンから2時間ちょっとのところのスキーリゾート地なんだけど、その・・・オレたちからの・・・その・・・クリスマスプレゼントなんだ」
「プレゼント?」

途中、言いにくそうに何度かつっかえつつも最後は一気に言い切った。

「ボスには勿論、いつも世話になっているし、英二、お前にもうまいものを食わせてもらっているからさ。その・・・お礼なんだ」
「そうなんだ!お礼なんだよ!いかがわしいお金で調達したもんじゃないよ?オレたち、柄にもなくバイトしたんだぜ!?なっ、コング?」

アレックスにボーンズも加勢するように言葉を加えて、二人の後ろで所在なげに立ったままのコングの方を振り返った。

「オレなんか、好きなドーナツを我慢したんだぜぇ」
「お前はそのくらいの方がいいんだよ」

いつものじゃれ合いが始まったところでアレックスは照れるのか、視線をきょろきょろと落ち着きなく彷徨わせながらも最後は英二の手元へと目を遣った。

「リンクスの他の奴らも少しカンパしてくれたんだ。貰ってくれると嬉しい」
「アレックス・・・」

2013年12月15日

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