Silent Night 01

天気のよい昼下がり。すっかり寒くなったマンハッタンの通りをガラス越しに眺めながら、ボーンズは両手に持ったマグカップからコーヒーをずずっと啜った。体が温まる。

「集まったのは他でもない」

鹿爪らしい調子で切り出したアレックスの声に視線を窓の外から店内へと向ける。
そうだった。アレックスから「話がある」と言われて集まった、いつものドーナツショップ。呼び出されなくとも、いつも集まってしまうけれど。

「お前ら、金はあるか?」
「は?」

唐突なアレックスの問いに少し大きな声が出てしまったけれど、陣取った席は怖いドーナツ屋のおやじのいるカウンターからは一番離れて、かつ、高めの背もたれで遮られたボックス席。多少の声なら、そうは注意されないはず。
つい大き目の声で聞き返してしまったけれど、ちらっと横を見れば、食べかけのドーナツを手にしたまま、コングもぽかんとアレックスを見ていた。
自分もあんな間抜けな顔をしているのかと思いつつ、ボーンズがアレックスへ答える。

「あるわけないじゃん」
「オレもねえよ」

コングもあっさり答えると再びドーナツへと集中した。
一瞬、渋い顏をしたアレックスは気を取り直して、尻ポケットに丸めて差し込んでいた紙の束をテーブルの上へと広げた。

「そう言うと思っていたぜ。そんなお前たちにバイトの情報を持って来た」
「は?」

同じ反応を示すのも間抜けな気はしたが、アレックスの話が全く読めないので思わず、先程と同じ反応を返してしまった。

「全く話が見えねえよ」

文句を言いつつ、広げられた紙に目を遣ると高額だがちょっとハードなバイトが多い。

「何これ?」

あまりの不可解さに不満顏から一転、ボーンズがいつもの困り顔で不思議そうに聞き返すと、アレックスが「よくぞ聞いてくれた」といった体で得意げに話し出した。

「いつもボスには世話になっている。お前たちもそうだろ?」
「うん。それはそうだけど、だから?」

皿の上の残りのドーナツとマグカップのコーヒーをせわしくなく行ったり来たりしたまま、話を聞いている様子のないコングの椅子を軽く蹴って、アレックスはコングにも話を聞くよう促した。

「コング、お前も聞けよ。お前に頼る部分も多いんだから。・・・どこまで話したっけ?」
「ボスに世話になっている、しか言ってねぇ」

全く話が進まない。
「そうだった」と言って、コングがドーナツを食べる手を止めて、ようやく二人の注意が自分に集まったのを確認するとアレックスは話を続けた。

「もうすぐ12月に入るし、クリスマスも間近じゃねぇか。たまには世話になっているボスにオレたちから、プレゼントしてもいいんじゃねぇかって思ってよ」
「あぁ」

ようやく話が繋がった。だから、「金はあるか?」か。
でも、ないものはない。ボスのためと言っても、持ってないものは出せない。
ボーンスがぼんやりした頭でそう思ったところで、アレックスのコンコンとテーブルを叩く音で注意を引き戻される。

「オレもそうだけど、まとまった金なんて、オレたちねぇじゃん。そこで、これだ。これから不良返上で勤労青年になる」
「えぇ!?」
「文句言わねぇ。お前だって、ボスに喜んでもらいてぇだろ?効率いいのはこれと」

叔父さんさんだかなんだかの伝手だと言って、ハードそうだが、バイト料をはずんでもらえそうなバイトを次々に指し示すアレックス。
ボスのためと言われてしまえば、返す言葉もない。
体力勝負のバイトを指定された挙句、ドーナツを少しセーブして金を貯めろと言われたコングなんか涙目だ。
でも、ボスが喜ぶ顏が見られると思えば少し楽しみな気もした。

2013年12月8日

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