Wish in childfood 02

(女!?)

心臓を一掴みにされたような気がして、アッシュは頭の中で素早く顔写真のリストを捲るが、英二と一緒に出てきた女の子の顔に全く記憶がない。

(誰だ?)

歳は英二よりも少し年上にも見えるが、英二が童顔なことと、人種の違いで欧米人が年上に見えがちなことも考えると、英二と同じくらいなのかもしれない。
二人は楽しそうに会話をしながら店を出てきて、英二がやって来た方とは逆の方へと歩き出した。
アッシュがいた方とは逆の方向へと歩き出した二人にほっとして息を吐き出したが、それまで知らず息を止めていたのか、反動で空気が大量に肺へと流れ込んできたことに気が付いた。
手の平にはじっとりと汗が滲んでいた。
一旦、下へと向いた視線を上げれば、二人はアッシュに背を向けて、離れて行く。
開いて行く距離に我に返って、再び、英二の後を追うが、頭の中でがんがんと大きな音が聞こえる。
英二の隣を歩く女の子は誰だとか、英二とどういう関係なんだとか、疑問がぐるぐる巡る頭でとにかく二人の背中を追って行く。

コーヒースタンドを出た二人は時折、顏を見合わせて、仲良く話をしながら歩いて行く。
英二と女の子の関係に思考を巡らすアッシュが一瞬目を離した隙に暫く歩いた二人は急に通りから見えなくなった。
はっと顏を上げたアッシュは慌てて見失った辺りへと歩を進め、辺りを見渡し、二人が入りそうな店を探す。
宝飾店だったり、雑貨を売る店だったり、いくつかの小さな店が並んでいる。
慎重に店の中を覗いてみるが、どの店にもいない。
熱い日差しの中、汗がシャツを背中にべったりと貼り付かせる。
見失ったかと嫌な汗が額に浮かぶの感じたところで、もう少し行った先の奥へと続く小道を隔てた脇にスーパーマーケットがあることに気が付いた。
居た!
大きく路面に面した自動ドアから店の中を覗くと二人が居るのが見えた。
入り口付近には野菜やらフルーツが並べられて、二人はそのエリアで物色しているようだった。
英二が買い物用のカートを押して、彼女が手に取るフルーツを見て、微笑み合う。
その様子はどうしても二人の間柄の近さを感じさせる。
入った店は分かったので、アッシュは再び、出入り口から姿が見えないように二人が出て来るのを待つ。
時間にして15分程度だったが、アッシュには長い時間に感じられた。
あれは英二の彼女だろうか。いつから付き合っているんだろうか。どこで知り合ったのだろうか。
いくつもの疑問が浮かんでは答えのないまま消えて行く。
誰かへの見舞いの品という可能性も少ないながらも考えて、アッシュはもう少し様子を見ることにした。
大きい茶色い紙袋を両手で抱えた英二と女の子は店から出ると再び歩き出す。
再度、地下鉄に乗ることも考えられたが、暫く歩いて行くと二人は雰囲気のあるアパートメントの階段を上がって、建物の中へと入って行く。
そして、アッシュは一人取り残されて、夏の暑さに急に眩暈を感じた。

2013年8月8日

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