Sakura blooming 02

どうやら、シンがアッシュの背中へと空き缶を投げたらしい。
缶の中には少し残っていたのか、シートの上に少し零れている。アッシュの背中にも零れたのか、不快そうな顔で背中の摩っている。
こちらへ来ようとしているシンをその後ろではアレックスが慌てた様子で羽交い絞めにして、抑え込んでいるが、その顔は赤い。
アレックスの顔が赤いのはアルコールのせいだけではないだろう。
先程のアッシュと英二の様子を見ていたのはシンだけではなかったらしい。

(あーあ。次に会ったときの言い訳考えておかなくちゃ)

アッシュとの関係は周囲には秘密だ。アッシュは気にしないかもしれないが、アッシュの仲間内での立場もあると思うし、日本に居る伊部さんが聞いたら卒倒する。何より、家族もびっくりだ。
でも、言ってしまいたいたくなるときもある。

「おい、離せよ・・・痛っ!」

シンの声に現実に引き戻される。
体を捻ってアレックスを振りほどこうとしているシンの頭を近くに座っていたジェシカが勢いよく叩いた。

「ちょっと、あんた、何やってるのよ!」
「何するんだよ!おばさん!」

アッシュの方へと向かっていた体を方向転換させて、ジェシカの方へと向き直った。

「お!おばさんじゃないわよ!・・・そんなことより、よくもあんたいいところを邪魔してくれたわね!」

ジェシカは右手に持ったコンパクトカメラをもう片方の手で指差して、シンに抗議した。

「いいところ!?」

ジェシカの言葉に思いきり、顏を顰めてシンが問い質すとジェシカは身を乗り出してきた。

「そうよ!アッシュが英二にキスするところだったのに!シャッターチャンスだったのに!」
「どこがシャッターチャンスなんだよ!」
「金髪の美少年に黒髪のかわいい子。絵になるでしょう?うちの雑誌は日本にも打って出ようとしてるのよ。日本では人気あるらしいじゃない?せっかくのいい絵だったのに!」

「かわいい子って」と英二はジェシカの言葉に更に顏を赤らめた。
ジェシカは一方的に捲くし立てると、ふっと息を吐いて残念そうに、「あのくそガキだって、黙っていれば絵になるんだから」と付け加えた。
かと思うとくるっと英二に向き直って、満面の笑みで英二に提案する。

「ねぇ、英二。今度、二人で撮影にいらっしゃいよ。きれいに撮ってあげるから」
「はは。遠慮しておくよ」
「もう。その気になったらいつでも言ってね。そういえば、あのガキは?」

英二はジェシカに愛想笑いを向けて、自分の膝元を指差した。

「まぁ!」

先程まで英二とあわやキスするのかという距離まで顏を寄せていたアッシュは今では英二の膝の上ですやすやと寝息を立てている。

「なんか、だいぶ酔ってたみたい」
「あぁ。最初の方で随分、うちのロクデナシと飲んでいたからね。『男の勝負だ』なんて言って、飲み比べしていたもの。ほんとに、男ってバカよねぇ」

呆れ顔のジェシカの言葉に少し離れたところに目を遣れば、ビールの空き缶やら、日本酒の一升瓶、果ては紹興酒の瓶まで転がっている。瓶の中身もだいぶ減っているようだったから、複数の酒を随分飲んでいたようだ。
アッシュは飲んでも顏色が変わらないので全く分からなかったが、相当酔っていたようだ。
英二がアッシュに顏を寄せるとだいぶ酒臭い。

(これはだいぶ飲んだな)

アッシュらしからぬ言葉を並べるので、おかしいとは思った。
再びジェシカの方に目を向ければ、マックスはとうの昔に酔いつぶれていたらしく、ジェシカの向こうで、気持ちよさそうに春の陽射しの中、お腹を出して寝ている。
英二と目が合ったジェシカは呆れたように肩を竦めて、マックスへと寄ると、シャツを引っ張って、出ていたお腹を仕舞っている。あれはあれで、なんだかんだと言っても仲が良い。雨降って地固まるってやつか。

「英二!」

間に置かれていたいくつもの料理皿を避けながらシンが傍へとやって来た。

「英二、大丈夫だったか?まだ何もされてない?」

シンの問いに引き攣った笑顔で返して、お礼を述べた。

「今日は本当にありがとう。ニューヨークに来て、お花見ができるとは思わなかったよ」
「いや、喜んでくれて嬉しいよ。日本人の言うお花見って、こんな感じでよかったのか?」
「うん、まぁ、こんなかな」

周りの讃嘆たる状況に苦笑して英二は応えた。
先週、出先で桜が咲いているのを見て、リンクスも呼んで、花見をしたいとアッシュに提案すると一言で却下された。



「ダメ」
「なんで!?」

こちらでは日本と違って、公共の場所、特に屋外では飲酒は禁止らしい。
禁止されているのでは仕方ないと英二は諦めたものの、日本での花見の思い出を語り出した。

「ハタチになったら、ようやくお酒飲みながら、お花見なんてこともできると思っていたのになぁ」

残念そうに言う英二にアッシュはため息吐いた。

「そんなに酒好きじゃないだろ?」
「うーん。そうなんだけど、大学入ってクラスでお花見したんだけど、先生が厳しい人でハタチ未満はお酒は絶対ダメだって。周囲のグループでは楽しそうに飲んでいて、来年こそは、と思った年にこっちに来ちゃったからなぁ」

「花見酒したかったなぁ」と取り込んだ洗濯物を畳みながら呟く英二にアッシュが苦虫潰した顏で言ったのが先週のこと。

「そんなに酒飲み宴会がしたけりゃ、シンに言ってみたらいいじゃないか。あいつのバックには無駄に広い庭を持ったバカ様がいるじゃないか。桜の1本や2本生えたところはあるだろ」

今回、お話を書くにあたって、調べてみたら、向こうでは日本のような酒宴はできないらしいと知りました(xox;)
公共の場でのアルコールは基本的に不可らしいです。
限られた場所では飲めるようなので、実際にはお花見酒宴ができる場所はあるかもしれないですが、基本的にできないらしいとのことでしたので(^^;)
(2013年4月20日コメントから)

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