Sakura blooming 01

見上げれば満開の桜。視界いっぱいの桜色の向こうには真っ青な空が垣間見える。
薄く色づいた桜の小さな花びらがひらりひらりと風に舞っては顏にも降り注ぐ。
緑鮮やかな手入れの行き届いた芝の上に敷かれたビニールシートの上には皿に載せられて、サンドイッチやら、見た目にも綺麗に半分にカットされたゆで卵やら、他にも揚げられた肉などが美味しそうに並んでいる。
英二は食べていた唐揚げを缶ビールで飲みこむとアッシュの頭の上に桜の花びらが数枚乗っていることに気が付いた。

「アッシュ、髪に花びらが付いているよ」

手を伸ばして、アッシュの髪に付いた花びらを優しく摘まんだ。

「英二にも付いている」

片膝立てて、片手にバドワイザーを持ったアッシュには春の麗らかな陽射しが降り注いで、ビールを持った天使のような、なんともシュールな光景だ。

(それでも、絵になるんだからすごい)

英二は内心苦笑しながら、アッシュを眺めた。
陽の光がアッシュのプラチナブロンドを照らし、ブロンド自体が発光しているかのように柔らかい光を放って、優しく吹く風に髪がふわふわと揺れている。

手にしたバドワイザーを左手に持ち替え、身を乗り出して、英二の髪についた花びらを取ろうと手を伸ばしてきたアッシュの動きがふと止まった。

「どうしたの?」

少し首を傾げてこちらを見遣る英二にアッシュは目を細めた。
そして、途中で止めた手を再び伸ばして、英二の黒髪を優しく撫でた。

「?」
「お前の真っ黒な髪に桜は似合うな」
「え?」

氷の彫像のようだと評されがちな、いつものアッシュの表情とは異なり、口元には優しい笑みを湛えて、「これが天使か」と思いたくなるほど慈愛に満ちている。

「英二はまるで桜みたいだな」

アッシュの優しい表情に英二が見惚れているとアッシュは思いがけないことを言い出した。
言葉の意味をどう理解したものか英二が戸惑っていると、アッシュは英二の髪を弄びながら続けた。

「花は小さいし、色も薄いし、色も匂いも決して主張していないのに、誰にでも受け入れて、愛されている・・・ほら、お前みたいだろう?」

優しい光を放って自分を見つめる翡翠の瞳に、英二は自分の心臓の音が聞こえるような気がした。
いつもと違う雰囲気を纏って語るアッシュになんと返したらいいのか、英二は言葉を詰まらせたが、ようやく言葉を絞り出した。

「はは。それって、僕が地味だって言っているのかな」

この空気に呑まれてはいけないと精一杯絞り出した英二の言葉にアッシュはふっと笑った。

「違う。満開の桜には目を奪われる・・・」

アッシュは少し言葉を切って、英二の黒い瞳を覗き込んだ。

「あ、あの・・・」

先程から英二の髪を弄んでいたアッシュの右手はいつの間にか英二の耳たぶへと移っている。

(なんか、距離が近付いてきているような・・・)

「咲き誇った桜は圧倒的な存在感で・・・」

アッシュは言葉を一旦切ると左手に持っていたバドワイザーを遂に下へ置くと両手で英二の頬を包み込んだ。

「見る者を惹きつけるんだ」

アッシュの顔が段々近づいてくるような気がするのはきっと気のせいではない。

(顏、顏が近いんですけど)

英二の顔を見つめるアッシュの瞳はどこか恍惚としたように潤んでいる。
アッシュに魅入られたかのように顏を真っ赤にして固まった英二は両手を後ろに突いて、体を逸らすがアッシュの顔は少しずつ近づいてきた。

「あ・・・あの・・・」

(キスされる!)

英二は目をぎゅっと強く瞑った。
少し瞳を伏せたアッシュは顏を少し傾けて、もう少しで唇と唇が触れそうなところでアッシュの動きがぴたりと止まった。
途端に耳に入る大きな声。

「おい!」

アッシュは英二の頬から手を離して、嫌そうな顔をして声の方へと振り向いた。
アッシュの顔が離れていったことに幾分残念な気もしたが、英二はほっとして大きく息を吐き出した。
英二は頬に熱を未だ感じながら、声のした方へと振り返ったアッシュの手元へと目を向けるとビールの缶が転がっている。
アッシュの背中越しに後ろを覗き込むとシンが少し赤い顏をして握り拳を上げて喚いている。

「何、さっきから二人の世界を作ってるんだよ!」

桜が思っていたより早く咲いてしまったので〜。
ちょっぴり時期ズレとなってしまいましたが、桜のネタで書いてはいたんですよ(-ω-;)
それも3日間のお話を・・・。
できあがるまで置いておくと、日本全国、全て桜は散ってしまうので、他のはお蔵入りにして更新です。

そんな桜を巡る2日目のお話のつもりで書きましたが、単品でも問題なくお読み頂けると思います。
私の趣味嗜好が反映されたものとなっております(^ω^)
(2013年4月13日コメントから)

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