Holy Night 03

英二が普段暮らす周辺も十分、クリスマスの装飾が目立ち始めていたが、こうして、デパート等の商業施設が立ち並ぶ周辺は、よりクリスマスムードに賑わっている。
イルミネーションで飾りつけられているのは通りの街路樹だけではなく、通りの上もイルミネーションが渡してあって、バスなどの大型車両が引っ掛けないか心配なくらいだ。
通りに面したショーウィンドウも各店の力の入れどころらしく、ストーリー性のあるディスプレイは見ているだけでも楽しい。店の入り口も緑のモミの木に、金のモール、赤いリボンなどでぐるっと囲うように飾られている。どこを見てもクリスマスに彩られている。

通りにもモミの木がずらりと並んでいて、ここまで歩いてくる途中、何度もツリーを勧められたが、アッシュは「ここじゃないんだ」と言って、立ち止まりもしない。どうやら、目的の店があるらしい。
人混みの中、先を歩くアッシュから離れないように付いて行っているつもりだが、英二は周囲の飾りつけに夢中でつい、きょろきょろしてしまう。

「ほら、英二。ちゃんと足元見ろよ。あまりきょろきょろしてると人にぶつかるぞ、ほらっ」

アッシュにぐいっと腕を掴まれ、引き寄せられた。

「いやぁ、すごい装飾だなと思って。日本もすごいけど、やっぱり本場には敵わないね」

そういって、高揚に頬を幾分染めながら言う英二にアッシュは驚いて聞き返した。

「なに、日本でもクリスマスってやるのか?・・・そんなにクリスチャンはいるのか」
「あぁ、違うよ。クリスチャンはいると思うけど、クリスチャンじゃない人もクリスマスを楽しむんだ」
「・・・へぇ。日本人って変わってるな。異教徒のイベントなんてやらないな、こっちでは」
「異教徒・・・日々を楽しむと言ってくれ。クリスマスにはケーキ食べたり、鶏の唐揚げを食べたり・・・・恋人と過ごしたりするんだ」

アッシュの驚いた顔が次第に呆れ顔に変わる。

「それ、全部クリスマスのことか?」
「そうさ。こっちでは・・・そんなに違う?」

アッシュの呆れ顔に少し自信をなくしたように、「そりゃ、本場だから少しは違うかもしれないけど」と小声で言って、横を歩くアッシュの顔を見た。

「ケーキも食わないし、唐揚げは・・・別に定番じゃないな。だいたい、クリスマスは家族と過ごして、教会に行く日だぜ?」
「えぇっ。せめてケーキは食べると思ってたよ」
「海を渡る間にずいぶん歪んで伝わったみたいだな」

にやりと笑ったアッシュに英二は肩を竦めた。
話が一段落したところで、英二はアッシュの様子を窺うように切り出した。

「ねぇ、アッシュ。僕、せっかくだから本物のツリーがいいんだけど、ダメかな?」

通りの両脇には本物の木がずらりと並べられ、店の者が大きい声で客の呼び込みをしているが、アッシュは悉く、無視して歩を進めているので、本物のツリーを買う気はなく、プラスチックのツリーを買うつもりなのかもしれない。この先にあるのは、たしか、大きいデパートだ。

「本物って?」

アッシュが身長差の関係上、英二を少し見下ろした格好で聞き返す。

「本物の木だよ。昔、テレビで見ていて、本物のツリーのクリスマスっていいなぁと思ってたんだ」
「?」

アッシュの無言を言外の否定の意味と捉えて、英二が笑ってごまかすように目の前で手を左右に振った。

「いや、無理ならいいんだ。あんな大きいものが家にあったら、後々困るしね」
「・・・いや、無理じゃないけど・・・けど、と言うか、普通、本物の木だろ?」
「えぇ!?普通なの?日本じゃ、普通はプラスチックのツリーだよ?」

英二の言葉にアッシュにしては珍しく目を丸く見開き、口も半ば開いて、驚いたようだった。瞬きを数度して、

「あぁ・・・まぁ、確かにフェイクのツリーも0じゃないけどな。でも、本物の木のツリーの方が多いと思うけどな。しかし・・・聞けば聞くほど、日本のクリスマスは本当にクリスマスとは思えないな。その日本式のクリスマスの話はもっと聞きたいところだな」

と付け加えたが、口元はしっかりと笑っていた。

「なんか、馬鹿にしてるだろ〜?・・・まぁ、いいや。君には日本式のクリスマスも教えてあげるよ。倍楽しめるだろう?」

軽く睨んで挑発的に言う英二をアッシュは優しい目で見返した。

「そりゃ、楽しみだな。ほら、着いたぞ」

アッシュの言葉に、顔を前に向けると英二は大きく目を見開き、思わず感動の声が出た。

「うわ〜っ」

見ようによっては、ビルの谷間にちょっとした森が現れたようだ。ビルとビルの間の区画にぎっしりと木々が立ち並び、森の匂いが立ち込めている。
驚く英二にアッシュが声を掛ける。

「ここ、ハロウィンまではカボチャ売ってたんだぜ?」
「え?」
「いつもは駐車場なんだけどな、シーズンに合わせた店が出ているんだ」
「へぇ」

整然と並んだ木々の通路には店の者と思しき人と客が何組もいて、木の物色をしたり、木を切り倒しているのも見える。

「ここでは、植わった状態の木を見て、自分で選んで買っていくんだよ」
「・・・うわぁ」

昔、TVで見たのか、本で読んだのか忘れたのですが、アメリカの方は結構、自国のことしか知らない人も多くて、日本の場所も知らない人は多いらしいというのを思い出しながら書きました。
アッシュも日本のことはあまり知らなかったんじゃないかなぁと思いつつ(^ω^)

今回書くにあたり、ちょろちょろネットで見たのですが、本当はハムを食べるところを、大きくて、大人数向きということでターキー食べることもあるというくらいなんですね。唐揚げは「なぜ唐揚げ!?」と思うらしいです。
とにかく、ケーキは食べないというのはよく分かりました(^^;)
(2012年12月21日コメントから)

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