Holy Night 02

アッシュの口調が変わっていることに気付いて英二が顏を上げる。

(君はまたそういう顏をするんだね・・・)

「家族はお前のこと、待っていると思う。帰った方がいい」

言い終わらぬうちにアッシュは英二から視線を外して、マグカップの冷めたコーヒーへと手を伸ばした。

「・・・今帰ったら、怒られ損だろ?」

アッシュの真剣な物言いとは全く逆に、英二のおどけた口調にアッシュは弾かれるように顏を上げた。

「理由はともかく一度、大喧嘩してまで帰らないと言ったんだ。それを、『年末になったので帰ります』なんて、言ってごらんよ、それこそ母が大激怒するよ」

言っている途中で様子が目に浮かぶのか、くくっと笑って英二は続けた。

「暫くはもう帰れないなぁ。こっちで、少しは写真の腕を磨いて、報告できることを作らないと。家の方は大丈夫。妹がしっかりしているから。だから、クリスマスツリーを買いに行こう?アッシュ」

真剣な面持ちで英二を見つめていたアッシュは英二の軽い物言いに表情を緩ませた。
こう言い出したときの英二はアッシュが何を言っても意見を曲げない。
遠からず英二と家族を引き離す原因を作ってしまったことに申し訳を感じながら、アッシュは英二の頑固さに苦笑した。

「帰れないって言うんなら、仕方ないな」

(こうして、オレはいつも英二の厚意に甘えてしまう)

言葉とは対照的に、考え込んだアッシュの顏をコーヒーを飲む振りをしながら英二は見ていた。

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クリスマスも両の手で数えるのに足りるくらいに迫った日、英二とアッシュはクリスマスの準備をするため、買い物に出かけることにした。

「・・・・・・なんで、そんなにおめかしした恰好なの?」

英二は怪訝な顔で上から下までアッシュを眺めた。
アッシュはジーンズに上着といった、いつものラフな格好とは異なり、緑と黒のタータンチェックのパンツに紺のカーディガンを着こんで、その上にはキャメル色のダッフルコートを着ている。

「しかも、その髪型はいったい・・・」

髪も七三に分けて整髪料を付けたのか、柔らかそうながらもしっかりと分けられ、顔には銀縁の細いフレームの眼鏡まで掛けられている。
どこから見ても、上品そうで、いい家の子息だ。
英二の質問にアッシュは「そんなことも分からないのか」と言わんばかりの顔で答えた。

「考えてもみろよ。これからオレたちが行くのは人出の多い繁華街。そうそう、誰かに会うとは思わないが、念のため、少しは変装らしい恰好はした方がいいだろ?」
「あ」

アッシュはさらっと言ったが、英二は言われた内容に言葉を失った。

アッシュによると、マフィアはゴルツィネも死亡して、財団の立て直しやら、内部紛争やらで、“バナナフィッシュ”を持たないアッシュを積極的に探す理由はないし、公的記録では死んだことになっているアッシュが今更、表に出てくるのは都合がいいとは思えないので、市警も敢えて追ってくることはないと思われるとのことだった。
・・・でも、直接アッシュを知る人ならどうだろう。
チャーリーやジェンキンズ警部がアッシュを見かけたらどうするのだろう・・・。

「お前が暗い顏するなよ」

そう言ってアッシュは英二の頭を軽くはたいた。

「う、うん」

2012年12月20日

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