Holy Night 01

かちゃかちゃとフォークが皿をひっかく音が響く。
英二に無理やり起こされて、朝食の場についたものの、アッシュはまだ覚醒しきらず、右手に持ったフォークは皿の上の目玉焼きを取り上げようとしているのか、単に皿の上を掻き回しているのか分からない。要は先ほどからアッシュの食事は全くと言っていいほど進んでいない。
そんなアッシュを向かいに座った英二は先ほどから上目使いで様子を探るようにして、ちらちらと見ている。
ずずっと熱いコーヒーを口に含んだところで、アッシュから声を掛けられた。

「さっきから人の顔をちらちら見ていて、言いたいことがあるなら、言ったらどうだ?」

英二がつい先ほどまで見ていたときには、目は眠そうで、上まぶたもの落ち気味で夢見心地だったアッシュの顔は今ではすっきりと目が覚めたのか、にやりと笑って、英二を見つめている。

「う」

(さっきまで眠そうだったくせに、覚めるとなると早いなー)

皿の上を掻き回すだけだったフォークは皿の上の料理をきちんと規則正しく、アッシュの口に運んでいる。

「・・・英二、もう少しきれいに皿に盛ったらどうだ?目玉焼きも横のサラダもぐちゃぐちゃだぜ?」

アッシュは少し眉間に皺を寄せて、皿の盛り付けに不満を漏らした。

「・・・君が掻き回したんだよ・・・」
「・・・・・・覚えてねぇ」

英二の冷たい視線に、不思議なものを見る目で自分の皿の上をじっと見て、アッシュは呟いた。
しばし、皿を注視した後、アッシュは英二の気をとりなすように、先ほどの質問に戻った。

「なんか言いたいことがあったんだろ?」
「あ、あぁ」

アッシュの問い掛けに英二はころっと表情を一変させて、少し恥ずかしそうに切り出した。

「12月になったね」
「あぁ」
「ついこの前までハロウィンだ、サンクスギビングだって言ってたのにね」
「あぁ」
「12月にもなると街はもうクリスマス一色だね」
「あぁ」

アッシュはさっきから「あぁ」しか返して来ない。澄ました顔して、食事を続けながら、口だけで返事しているが、口の端が上がっているから、これはきっとわざとやっている。
英二は内心、「くそ〜」と思いつつも、笑顔を貼りつかせたまま、言いたかったことへ向ける最後の問いかけをする。

「そこで、この部屋には何か足りないものはないかい?」
「ん?何が?」

ようやくアッシュが英二の顔を見て返事するが、不思議そうに訊いた言葉とは裏腹に目はしっかり笑っている。

「もう!分かってるんだろ?意地悪だぞ、君!」

「もう、やめた」と言わんばかりに、にこにこ顔で話していた英二がふくれてアッシュを非難した。
その勢いのまま、マグカップに入ったコーヒーをぐいっと飲むと、「あちっ」とカップから口を離して、舌を出した。一気に飲むにはまだ熱かったらしい。

「オニイチャンはクリスマスツリーが欲しいんだろ?」

アッシュがにやにや笑って、軽く舌をやけどしたのか、舌を少し出して涙目になっている英二に訊いた。

「そう!そうなんだ!クリスマスツリーが欲しいんだよ!もうっ、やっぱり分かってるんじゃないか」

アッシュの言葉に今度は本当の笑顔で、自分の言いたいことが伝わったことに喜ぶ一方で、言葉の最後にアッシュへの文句を付け加えた英二の表情は本当にころころと変わる。

「オニイチャンが何を言い出すのか、楽しくて」
「・・・その顔は完全に馬鹿にしてるな?」
「馬鹿になんてしてないさ。面白がっているだけさ」

英二の言葉に「心外だ」と言わんばかりの大げさな顔をして、肩を竦めるアッシュに英二は「もういい」と言って、残りの朝食を食べ始めた。

「クリスマスツリーはいいけど、お前、いつ帰るんだ?」

これ以上からかうと英二が本格的に拗ねるので、アッシュは話を変えることにした。

「え?・・・帰らないよ?」

口に運ぼうとしていたトーストを口から離して、英二は不思議そうに聞き返した。

「クリスマスホリデーに帰らなくていいのか?」
「クリスチャンじゃないからね。どちらかと言うと、帰るなら年末年始なんだけどね」

「そのクリスチャンじゃないくせに、クリスマスツリーを欲しいって言っているのはどこのどいつだ」とアッシュが突っ込もうと思ったところで、英二がさりげなく、アッシュの思ってもなかったことを言い出した。

「帰れないんだよね。というか、帰って来なくていいと言われているというか」
「え」

アッシュの表情が固まる。思い返せば、英二が日本に電話を掛けているところを見たことがない。
表情が変わったアッシュをよそに英二はトーストを再度取り上げて、朝食の続きに入っていて、アッシュの様子には気づいていない。

「日本を出るときには言ってこなかったけど、元々、僕は帰るつもりがなかったから。『帰らない』って連絡したら、かんかんでさぁ。そしたら、『じゃあ、もう帰ってくるな』って言われてさ」
「・・・英二、帰れよ」

思いのほか長くなってしまって、自分でもびっくりです(@_@;)
えーと。最初に申しあげておきますと、人によっては無用に長いと感じられるかもしれないです(-ω-;)

少々、冗長に感じられるかもしれないですが、ワンシーンだけ書くよりも、できるだけ、そこに至るまでの流れとか空気を書きたいのでついつい長くなってしまいます(><)
その辺りも広い心でお読み頂ければ嬉しいです。

・・・それにしても、なかなかまとまった時間が取れないので書き上げてしまおうと一日頑張ったのですが、頑張り過ぎたのか、長く座り過ぎで腰が痛い・・・(´ x `;*)
しかも、書きあがらなかった・・・(゚ω゚;)
(2012年12月16日コメントから)

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