Happy Halloween 【after Party】前編

「いい?ベッドから出て来ちゃ、絶対、ダメだからね?」

部屋から出て行きかけた英二が片手をドアに掛けたまま、振り返った。
アッシュは頭の後ろで手を組んで、そっぽを向いたまま、小声で悪態を吐いた。

「母親かっ」
「なんか言った?」

出て行きかけた英二が怖い顔して、再度振り返る。

「いーや、何にも」
「だよね」

取って付けたようなアッシュの返事に英二も作り笑顔で応酬する。しかし、目は笑ってない。普段怒らない人間は怒ると怖い。



その日の朝、いつものようにアッシュが英二に叩き起こされて、もそもそと英二が用意した朝食を食べていたときのこと、

「なんか、君、顔が赤いけど、熱があるんじゃない?」

そう言って、アッシュの額に手を充てたと思うと、

「やっぱり!」

と言って、「それは水を使っていたお前の手が冷たいからじゃないか?」とアッシュが反論する間もなく、食べ終わるか食べ終わらないかといったうちにベッドルームへと追い立てられて、再度、ベッドへと寝かされた。
ようやく、たいした熱じゃないと言って、アッシュがベッドから出ようとすると英二の小言が始まった。
日頃の生活習慣だの、不摂生だの、健康管理は重要、等々。よくそれだけ続くなぁと半ば呆れて、英二の顔を眺めているうちに、「風邪は万病の元だからね」と最後は締め括られたと思うといきなり口に体温計を放り込まれ、英二は「ちょっと熱があるかな。カボチャ熱かなぁ?」と言い出した。
「カボチャ熱」なんて聞いたこともないことを言われて腑に落ちなかったが、昨晩のハロウィンパーティーのお礼を言われて、アッシュは照れ臭さで「看病させてやるよ」と減らず口を利いた。

「じゃ、ぼくは薬を買いに行ってくるからね」と言うだけ言って、英二はさっさと部屋を出て行ってしまった。
とは言うものの、さすがに華氏99度で寝込むほどではないだろうと、英二が出かけてすぐにアッシュはベッドから出て、リビングへと向かい、3人掛けのソファの肘掛け部分に寄り掛かる恰好で、悠々と足も投げ出し、雑誌を読み始めた。
日頃から情報収集が肝要だと考えているアッシュが「あの企業にそんな話があったのか」とか「やっぱりそうだったのか」などと興味深く雑誌を読みふけっていると玄関の方から英二が帰ってきた音がした。
英二がリビングとは反対方向のベッドルームへと向かった足音がした。
ベッドに大人しく収まっていなかったアッシュを見て、小言を言うのはアッシュの想定の範囲だったが、この日はいつもと違っていた。
ベッドルームのドアを開けてすぐにアッシュがいないことに気付いたのだろう、英二のリビングへと向かう足音が足早に迫ってくる。

がちゃ。

リビングのドアが開いて、アッシュが英二に声を掛けようとした途端に英二に大声で怒られた。

「君ってやつは!」
「いきなり、なんだ・・・よ」

いきなり怒られてアッシュは文句を言おうとしたが、英二の顔を見て、最後まで言えずに語尾は小さく掻き消えた。
ドアを勢いよく開け放って現れた英二は顏を真っ赤にして、目には涙までうっすらと溜まっている。
思わず息を飲んでアッシュはソファから立ち上がると、英二の方へと近付きながら、眉根を寄せて、英二に理由を尋ねた。

「どうしたんだ?何かあったのか?」

理由を尋ねたアッシュに英二は少し溜めるように黙った後、感情を爆発させるように話し出した。

「薬を買いに行ったら、アレックスたちに会って・・・そしたら、ぼくのために君がカボチャを受け入れたって聞いて・・・熱はぼくのせいだから、ちゃんと看病しようって・・・なのに、君って奴は!」

英二の勢いと口から出てくる単語にアッシュはぽかんとした顏になった。

(・・・まったく分からない・・・)

英二が何に興奮して、何が不満で涙目になっているのか、アッシュには皆目見当がつかない。
アッシュに分かるのはただ英二がアッシュのためを思っているということだけだ。英二のアッシュを思いやった気持ちだけは伝わってくる。

アッシュは英二の方へと歩を進めて距離を詰めると左手で英二の肩を自分の方へと引き寄せると右手で英二の頭を優しく撫でた。

「なんだかよく分からないが、サンキュ」

アッシュが子供をあやすように英二の頭を2度、3度と撫でてやると、興奮して息の荒かった英二も落ち着いたのか、アッシュの腕の中で小さく、「うん」と答えた。
優しい時間が流れるかと思ったのも束の間、英二は両手でアッシュの肩を掴んで、引き離すと自分の手をアッシュの額へと当てた。

「アッシュ、絶対、朝より熱が上がっているよ!」
「そんなことない」
「いいから、つべこべ言わずにベッドへ戻る!さあ、さあ!」

急に元気を取り戻した英二はアッシュの両肩を掴んで方向を転換させるとリビングの出口へと背中を押した。

(ま、いいか)

そんなに熱があるとは思えないが英二があまりに看病したがるので、たまには言うことを聞いてやるかという気になった。

********************

「いい?ベッドから出て来ちゃ、絶対、ダメだからね?」

そして、冒頭の場面へと戻る。
軽口の応酬の後、英二は軽めの昼と薬を持って来ると言って部屋から出て行った。

ベッドの中で寝返りを打ちながらアッシュは先ほど英二が発した言葉を思い返した。

(“アレックスたち”に“カボチャ”に“ぼくのせい”だって?)

意味不明の一連の言葉の中からいくつかの気になるキーワードを頼りに思考する。

(・・・・・・あいつら、次に顏見たらシメあげてやる)

少し考えた後、外出先で英二に何が起こったのかある程度想像がついて、アレックスたち3人組みにはありがたくないことを考える。

(余計なことを言いやがって)

そして、ふと、昨晩のハロウィンの夜のことを思い返す。
とりあえずはアレックスたちがお膳立てしてくれたハロウィンパーティーに行ってみたものの、知り合いがそう多くはない英二は結局はアッシュと二人で店の隅に置かれたソファで飲み食いして、大半の時間を過ごしてしまった。
アレックスがパーティーを盛り上げようとアッシュの名前を出して、手当たり次第に女の子に声を掛けたためにパーティーでは女の子たちが大挙して入れ代わり、立ち代わりとアッシュを探してやってくる始末だった。

(あれは髪の色まで変えておいて正解だったな)

アッシュは思惑がうまくいったことを思い返して、一人、笑った。

「まだ続くの!?」と思った方、すみませ〜ん。
もう少しだけ続くのです(*・ω・*)
しかも、妙に長かったので切ってみましたが、切りがあまりよくなかったかな(-ω-;)

楽しんで頂ければ嬉しいです♪
(2012年11月24日コメントから)

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