Happy Halloween -Inside story-

リンクス3人組がいつも入り浸っている店で(主にコングが)ドーナツを食べていると、見覚えのある黒髪の少年が手からビニール袋を提げて、店の前を通り過ぎて行くのにボーンズが気が付いた。

「おーい、英二!」

店のドアを開けて、ボーンズが通り過ぎた英二の背中に声を掛ける。

「あ、ボーンズ!」

振り返った英二は笑顔になるとボーンズに向けて、大きく手を振った。

「どこに行くんだ?」
「これから帰るところだよ」

英二が返事をしたかどうかと行ったときに、ボーンズの耳に低い声が入ってきた。

「出るなら出る。出ないなら出ないで、ドアを閉めてくれないか。他のお客に迷惑だ」

なんで、この親父がドーナツ屋なんて見た目に似合わない店をやっているのか不思議になるような、コングもびっくりな巨漢で顔は髭面の鋭い目つきをした、この店の店長だ。

「あ、すみません」

ボーンズは首を竦めると英二に向かって、手招きをした。

「とにかく、ちょっと来いよ」

英二が来るまでドアを開け放しておくと似合わないエプロンをした熊みたいな店長に叱られるので、とりあえずドアを閉めて、先に店の中へ入り、二人の待つ席へと戻った。
ほどなくして、英二も3人のいるテーブルへとやってくる。

「あぁ、3人一緒だったんだね。君たち、ほんと、仲いいなぁ」
「そんなことより、どこへ行ってたんだ?ボスは一緒じゃないのか?」

アレックスが英二の呑気な言葉を遮って、アッシュ不在の理由を訊いた。

「いつも一緒ってわけじゃないさ。でも、アッシュは今、少し熱を出していてね」
「熱ぅ!?」

3人揃って聞き返す。

「熱出すなんて、これまで聞いたことないぜ?」

ボーンズは上目使いで英二を見ながら、疑ったように訊いた。

「そりゃ、アッシュだって人間なんだからさぁ。熱くらい出すだろ」

苦笑した英二にアレックスは顎を片手で摩りながら、片目を細めて、心配そうに訊いた。

「でも、寝込むなんて、相当だろ?大丈夫なのか?熱は高いのか?」

アレックスの問いに英二は少し考えて、「摂氏が」とか「華氏が」とか呟きながら、指折り計算した後、答えた。

「99度かな」
「え?」

英二の告げたアッシュの体温にアレックスとボーンズは顏を見合わせた。

(それって、熱に入らないんじゃ?)
(ボス、英二に無理やりベッドに入れられたんだな)

言葉にはしないが二人は目でそんな会話をした。
一方、ここには空気を読まない奴が一人いる。それまで、食べていたドーナツが腹の中に納まって、口が空いたからか、思ったことをそのまま口に出そうとする。

「そんなのは熱って・・・痛ぇっ。ボーンズ、何するんだよ」

グッジョブ、ボーンズ。どうやら、ボーンズがテーブルの下でコングの足を蹴って、発言を遮ったようだ。
ここで、99度なんか熱に入らないとか言い出すと、英二が説教モードに入ってしまい、延々と日頃の生活態度について苦言を呈されるのは目に見えている。
コングとボーンズが小競り合いをしているが、いつものじゃれ合いだと見て英二はアレックスに質問してきた。

「店の中は乾燥していて、多くの人が居たから、風邪を引いたのかもね。それに、昨日はアッシュにとってはストレス溜まる一日だったんじゃないかな」

「カボチャがいっぱいだったし」と誰に言うともなく言って、自分で笑って、言葉を続けた。

「何もあんなにカボチャを飾らなくてもよかったんじゃない?アッシュがカボチャ嫌いなのを知ってるんだろう?」

そう言って、まだ笑っている英二にアレックスは少し呆れたように言った。

「オレもそう言ったんだけどな。ボスは気にせず飾れって」
「どういうこと?」
「あ〜・・・」

アレックスは気まずそうに少し言い淀んだ後、「ま、いっか」と言って、英二にハロウィンパーティーを準備するにあたって交わしたアッシュとの会話を教えてくれた。

「もう、終わったから、いいよな。準備の相談をしたときに、カボチャの飾りつけは排除しておくって言ったら、お前にとってはハロウィンは初めてだろうから、ちゃんとしたハロウィンを体験させてやればいい、って。不自然にカボチャを排除しなくていいって言ってさ。その後、『むしろカボチャが飾りつけのメインなんだろう?』って、それはもう苦々しげに言ってさぁ・・・英二?」

アレックスの話を聞くうちに英二の顔からは徐々に笑顔が消えていき、そして、急に席を立った。

「・・・ぼく、帰らなくちゃ。リンゴと薬を買いに出て来たんだった」
「お?おぉ」

突然、慌ただしく店を出て行った英二にじゃれ合っていたボーンズたちも気づいて、「あれ?帰ったのか?」と話している。
アレックスは英二が出て行った店のドアを暫く眺めていて、「あ〜」と声に出し、苦い顏をしたと思うと皿の上のまだ残っているドーナツに手を伸ばしながら、二人に向かって言った。

「お前らも覚悟しとけよ?次にボスに会ったら、『余計なこと言いやがって』って怒られるかもしれねぇ」
「えぇ!?」

状況を全く呑み込めない二人はアレックスの言葉に目を見開いて、揃って大きな声を出した。

********************

家へと急ぐ帰り道。英二の顔は泣きそうな顔になっていた。
アレックスから聞いたハロウィンパーティーの準備に関する裏話。盛大に飾られたカボチャの飾りつけに、本当は嫌いなのは間違いないのに、それを平気だと言ったアッシュ。
申し訳ないと思う一方で、アッシュのその気遣いを嬉しく思う自分。

「早く帰って、リンゴを食べさせて、薬を飲ませて、しっかり治させなきゃ」

英二がそんな決意も新たに家に向かっていることも知らずに、英二が外出した隙に、「こんなの熱に入らねぇ」とアッシュはベッドから抜け出して、ソファで雑誌を読んでいた。
優しい気持ちでいっぱいになった英二が鬼に変わるのはもう少し後の話。

ちなみに華氏99度は37.2℃です(^^)
ちょっと、ぼんやりするくらいかな。
アレックスは裏話のつもりで話してみたら、思いのほか英二が真剣な顔して帰っちゃったので、帰ってからのアッシュと英二の会話が想像できちゃって、アッシュに後で怒られるのを察して、ちょっと憂鬱になってしまいました(^^;)
(2012年11月16日コメントから)

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