Happy Halloween -Intermission-

「ここにアッシュが居るらしいって・・・ごめんなさい。人違いだったわ」

がっかりした顏をして、料理の乗せられたテーブルの方へ戻って行く女の子もいれば、露骨に捨て台詞で背を向ける子もいる。

「アッシュなんて居ないじゃない」

英二は苦笑いして、アッシュと目を合わせて肩を竦めた。
店の隅の方に置かれたソファは、中央から見ると柱の影になっていたコーナーにひっそりと置かれている。置いてあると言うよりも、中央に場所をとるために、退けて置かれているのかもしれなかった。

ハロウィンを楽しみたいと言ったものの、ここでは英二に友達はそう多くない。
顔見知りに一通り声を掛けられて、互いの仮装の品評をすると後は見知らぬ連れ立った者たちばかりになり、アッシュと英二の二人きりになった。
ソファに来る途中で手に取って来たお酒やら、フライドチキンをお腹に収めたかどうかといったときから、引きも切らずに女の子たちがアッシュを探してやって来て、英二はアッシュがウィッグまで持ってきった理由を思い知ったのだった。

「な?正解だったろ?あんなのにいちいち対応していたら、おちおち、料理も食えねぇ」

アッシュが呆れるように言う。

「まあね。でも、女の子たちにはちょっと申し訳ないね」

英二が眉尻を少し下げて、アッシュを見ながら苦笑した。
英二の女の子たちを庇うような言葉に、アッシュは「ふん」と鼻を鳴らして応えてそっぽ向いた。
アッシュが長い脚を組み直して、その動きに合わせて、肩から掛けた漆黒のマントが翻る。似合いすぎていて嫌味なほどだ。

(自分に似合うものを知ってるな〜)

英二がちょっとの悔しさを覚えながら、アッシュに見惚れていると、ふと気づいたときには新たな女の子が近くまでやって来ていた。
薄暗い店の中でも明るい青だと分かるふんわりとしたスカートから女の子らしい細い足を覗かせて、金髪の頭にはスカートと同色のリボンのついたカチューシャ。
女の子がだいぶ近くに近づいて、ようやく、英二は気が付いた。

(あぁ、不思議の国のアリスなんだな)

既に何人ものアッシュ目当ての女の子に繰り返した言葉をアリスに向かって告げる。

「申し訳ないけど、アッシュはここには」

「いないよ」と告げようとすると、英二が言い終わらぬうちに、女の子はにっこり笑って想像してなかったことを言い出した。

「ううん。あなたと話そうと思って」

(えぇ!?)

そっぽ向いていたアッシュまでも勢いよく振り返るのをソファの揺れで感じる。
英二がびっくりして女の子の顔を改めて見たときには、女の子は既に空いていた英二の隣へと腰掛けた。
座った女の子にも驚いたが、英二はとっさにアッシュの方を向いた。
こちらを向いていたアッシュと一瞬目が合ったと思うと、アッシュは無言でまた反対方向を向いてしまった。
突然の出来事とアッシュの反応に動揺冷めやらぬ英二に女の子は矢継ぎ早に質問を投げ掛ける。見た目と違って、かわいく大人しいだけではないようだ。
とりあえず、愛想よく答えているようだが、英二は自分でも何を答えているのか分からなくなってきた。たぶん、彼女は既に自己紹介をして、名乗ったのだろうが、英二の頭には何も残っていない。
よそを向いたままで会話にも入って来ないアッシュの動向が気になる。
無言のままでもアッシュの機嫌が悪いのは、英二にはよく分かっている。

(うぅ、集中できない・・・誰か、助けて・・・)

何とか会話を終わらそうとするものの、女の子は(未だに名前も分からない)こちらの空気を察してくれず、いきなり英二の腕へと、正確には着ぐるみを着た英二の腕へと手を伸ばしてきた。

「すごい、ふわふわなのね〜」

そう言って、英二の着ぐるみの手を撫でてくる。
先ほどから感じている反対側、つまりアッシュのいる側の気温が下がったのは、たぶん英二の気のせいではない。

(なんだか分からないけど、怒ってるよ〜。会話に入れないからかな・・・うぅ、困った・・・あ、あれは・・・)

英二がアッシュの機嫌が悪い理由を考えていると女の子が英二の腕を取って、立とうとする。

「ねぇ、向こうに行って、もう少し話さない?」
「!」

これには英二もびっくりした。びっくりした瞬間に自分の口から大きな声が出た。

「アレックス!!」


視界を横切って行こうとしていたアレックスが英二の声を聞きつけて寄って来た。

「どうした?」

と言った途端に、すぐに隣で今まさに立ち上がろうとしていた自分のボスへと目を走らせ、英二たちを見て、もう一度、アッシュの方を。
そして、急に笑顔を作ったと思うと、英二の腕に掛けていた女の子の手を取って、立ち上がらせる。
女の子はなんだか文句を言っていたようだが、アレックスが宥めながら連れて行ってしまった。

英二はほっとするのと同時に明らかに機嫌の悪くなったアッシュをどうやって宥めようか苦笑しながら、アッシュの方へと向き直った。

(なんだか、今日は苦笑してばかりだな)

『Green eyes』のjerryさんが素敵な絵を描いてくださったので、その場面の話をもう少し描いてみました(^^)

jerryさんのサイトで是非是非、ご覧になってください♪
1シーンをこんなに素敵に切り取ってくださいました(^o^)
アッシュがカッコいいのは勿論ですが、英二も女の子もすごくかわいいんです(^^)
(2012年11月8日コメントから)

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