Bed room for TWO 後編
シンの驚きをよそにアレックスはボーンズに向かって得意げに言った。
「な、オレの言った通りだろ?引っ越してもボスと英二は同じ部屋で寝るって」
対してボーンズもアレックスのことを尊敬の眼差しで見ながら言った。
「さすが、No.2。オレは引っ越したら別かもなぁって、ちょっと思った」
ボーンズの言葉を聞いて、シンは力を得たのか強い調子で同意を求めてくる。
「だろ!?これまではともかく、もう狙われる危険はないんだから同じ部屋にベッドを並べる必要はないだろ!?」
急にシンに同意を求められたボーンズがどう答えたものかと動揺しているうちに、シンは英二の両肩をがしっと掴んだ。
「同じ部屋でベッド並べるなんて恋人同士じゃないんだからさぁ!」
「こ、こいびと!?」
思ってもなかった単語がシンの口から飛び出し、英二の声が裏返った。軽く握った右手を口元に当て、顔を真っ赤にしてその単語を反芻した。視線は完全に下を向いている。
シンが「部屋は他にもあるじゃないか」とか言っているようだったが、もはや英二の耳には全く入って来ない。
(今まで気にしてなかったけど、そう言われると急に恥ずかしくなってきたよ!)
その横でアレックスとボーンズが「まぁ、ボスと英二だからなぁ」「別に問題ないよなぁ」などとシンの話と噛み合っているんだか噛み合っていないんだか分からないような感想を漏らしていると、アッシュの声が割って入った。
「一つ、おれはまだ狙われることもあって、完全に安全と言い切れない。二つ、向こうの部屋はおれのパソコンを置いたり、書斎にするから、空いている部屋はない。以上だ」
「あ!アッシュ!」
アッシュは無表情でそう言うと来た方の廊下を振り返り、コングに声を掛けた。
「コング、もう向こうはいいから、帰るとき、そこの小さいのを連れて帰ってくれ」
「あいよ、ボス」
「まだ、引っ越し終わってないだろう!?」
コングは騒ぐシンへヌゥっと寄るとがしっとシンのウエスト辺りを抱えて、ドアから出て行こうとする。
「あ、馬鹿!離せよ!」
不良同士の命を懸けた喧嘩なら別だが、そうでなければコングとの体格の差はいかんともしがたい。シンは暴れてはみたが、コングは離してくれそうにない。
「英二!部屋は別の方・・・が・・・」
途中で声が掻き消えたのはコングに口を塞がれたかららしい。
コングの姿が開け放ったドアから消えようとするとアッシュは更に残ったアレックスとボーンズにも声を掛けた。
「お前たちももう帰っていいぞ。明日にでもうまいものを食わしてやるよ」
「Yes。ボス」
アッシュに引っ越しの手伝いを免除された二人は「帰りに何食って行く?」と話しながら、出て行く。
ぱたん。
音がして、騒がしかった家の中に急に静寂が訪れた。
シンの爆弾発言からあっという間のことだった。
「あ、あの、アッシュ・・・」
シンの言葉が耳に残ってしまって、英二がどぎまぎしながらアッシュに声を掛けると最後まで言い終わらないうちに、リビングへと戻ろうとしていたアッシュが英二に背を向けながら訊いた。
「ここの部屋は書斎にしようと思うけど・・・・・・英二はおれと同じ寝室で・・・よかったか?」
英二が知っているアッシュの癖の一つ。
(君は自信がないことを聞くとき、背を向けたまま聞くんだ)
「・・・もちろんさ!」
英二がはっきりと答えるとようやくアッシュは振り返って、ニヤッと口の端を上げた。
「オニイチャン、イビキがうるさいけど他に部屋がないから我慢するよ」
「なっ、ぼくはイビキなんかかかないよ!君こそ、夜に歯ぎしりしてるよ!」
英二が負けずに言い返すとアッシュは
「ボクは、歯ぎしりなんかシマセン」
急にかわいい子ぶって言う顏が小憎らしい。
(さっきまで殊勝に訊いてきたくせに〜。この顏で何人も騙してきたんだろうな〜)
シンの発言に非常に動揺した英二だったが、アッシュがそのことに全く触れなかったので、英二も忘れることにした。
一つ言うと倍以上返してくる小憎らしいアッシュだが、そんな他愛のない応酬が心地よい。
「ほら、残りの荷物も開けて、ベッドだって置いてしまわないといつまでもメシを食いに行けないぜ」
自分から英二をからかっておきながら、さっさと奥のリビングへと向かって、左手でちょいちょいと英二を呼んでいる。
(本当に自分勝手なんだから)
「あぁ、さっさと終わらしてしまおう」
英二もアッシュを追って、リビングへと入って行った。
明日からまた楽しい毎日が始まる予感がする。
2012年9月14日