再会 07

「シン、すごいね!思っていた以上の大きさだよ!東京にも自由の女神のレプリカがあるんだけど、その比じゃないね!」

英二とシンは自由の女神が立つリバティ島へとフェリーでやってきていた。
英二の意図が分からず戸惑うシンをよそに、英二は熱心に自由の女神を下から眺め上げて、しきりに大きい、大きいと感心している。

「でも、女神像の中にも入れると聞いていたんだけど、予約が必要なんて知らなかったな。君に頼んでおけばよかったな」

(観光に来たのかよ・・・)

内心入れたシンの突っ込みは正解で、その後もセントラルパークやら、タイムズスクエアへと連れ回された。
そろそろ陽も落ちようかという時間、二人はロックフェラーセンターへとやって来ていた。
英二はビルの前に設置されたロックフェラーセンターのシンボルのアトラス像を見上げていたがシンを振り返って言った。

「やっぱり、ここはクリスマスに来ないと、だね」
「あぁ。そうだな」

シンは昏い声で答えた。
英二は一日、観光をしただけだった。アッシュが死んだと聞かされて飛んできたにしては、普通にあちこちを見て回っただけだった。見て回った場所にも一貫性がない。自由の女神像のように観光地もあれば、たわいもない街角のスタンドでホットドッグを買って食べたりと、英二の考えていることは全く分からない。
そう思っていた。途中までは。
時間がたつにつれて、シンは英二のある行動に気付いた。
一日掛けて廻った先で観光にしか思えないような動きをしながらも、シンが投げやりに「写真でも撮ってやろうか?」と言っても、写真を撮るわけでもない。その割に、何かを探しているようだった。

強い視線で射抜くように英二を見るシンには気づかぬ様子で、「ここのクリスマスは有名だもんね」と言いながら、英二は周囲を見渡した。
そのとき、白のシャツにジーンズを穿いた金髪の背の高い青年が目の前を横切り、後ろ姿が英二の視界に入った。

「!」

英二は走りだし、その青年の前に回り込んだ。

「・・・すみません。人違いでした」

金髪の青年は片手を上げ、「no problem」と言って去って行った。
英二は悲しみを湛えた瞳で口だけ微笑んで振り返った。

「ごめん。知っている人かと思ったんだ」

シンは両手をぎゅっと握り、知らず、唇を噛み締めた。

(・・・アッシュ、これって英二は幸せなのかよ?)

「・・・アッシュだと思ったんだろ?」

シンは視線を足元に落として、英二に尋ねた。
英二は気が抜けたように、ふぅと息を吐き出しながら、傍にあった幾分高い植え込みの縁へと腰を掛け、顔を下へと向け寂しそうに笑った。落ちかけた陽に照らされた英二の顔は寂寥感に満ちていた。

「・・・シン。ユーシスから連絡をもらってからこの1か月間、ぼくはずっと後悔していた。『どうして帰ってきてしまったんだろう』、『どうしてアッシュの傍に居なかったんだろう』って」
「!!・・・それは」
「・・・分かってる。あの時は帰るしかなかったって。でも、もっと足掻く余地はなかったのかな。這ってでも行くことはできなかったんだろうか。・・・今回、アッシュとの思い出がある場所を廻ることで自分の気持ちにケリをつけようとしたけれど・・・無理みたいだ。・・・あいつから、“死んだ”って話を聞くのは簡単だけど、もう少し足掻いてみたいんだ。もう、同じ後悔はしたくない」

(もう、やめだ!)

英二の行動に興味もあったから、アッシュの生存については黙って一日付き合った。いつバラそうかとも考えていたが、もう限界だ。
当初は観光ばかりする英二の能天気な行動に少し腹も立った。しかし、行く先々で英二は必ずきょろきょろしていた。
「誰かを探しているんだ」と気づいた。誰かなんて、聞かなくても分かっている。アッシュだ。
そう気づいてからは英二の声は悲壮な声にしか聞こえなくなった。
いつでもアッシュの影を追って瞳彷徨わせて、今のように金髪と背格好しか合ってない後ろ姿を追いかけては落胆する英二を見ると心臓を潰されるような気持ちになるのと同時に、いつまでも出てこないで、こうしてシンの好きな笑顔を英二から取り上げているアッシュにも異様に腹が立ってきた。

(外に出てくる気のないアッシュのためなんかに“生きている”ってバラしても意味ないからな!)

「・・・・・いくら探してもアッシュには会えねぇよ」

英二の気持ちに入り込み過ぎて、自分で涙目になる私はお馬鹿さんです(^^;)
(2012年5月2日コメントから)

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