再会 05

シンの言葉にアッシュの右の眉がぴくりと上がった。
「あ、怒る」とシンは思ったものの止められなかった。

「あんたがいくら日本で平和に暮らして欲しいと思っても、現にあいつは自分の意思でここに来る。だいたい、日本にいれば安全なのか?事件にも事故にも巻き込まれることなく、安全で幸せに暮らせるのか!?」
「そういうことを言ってるんじゃない」

アッシュから冷気漂う怒気が漏れ出ているような気もするけど、表情は変わらない。感情を抑え込んでいるのだろう。
アッシュとは対照的にシンは感情が昂ぶるのを抑えられない。
決して長い時間ではなかったかもしれないが、シンは一緒に過ごして、英二の人に対する純粋な心、優しい空気を纏った面持ちの一方で、自分が正しいと思ったことは曲げない強い意志、自分の周囲では見ることのできない無垢なものを感じていた。
無垢である分、いつ傷つくかもしれない危うさもあり、放っておけないというか、世話を焼きたくなるというか、とにかく関わっていたい気持ちを掻き立てられる存在だ。
その英二本人の気持ちも考えずに自分の考えを押しつけているように見えるアッシュに対して、面白くない気持ちが湧き上がってくる。

「英二の気持ちは無視するんだな。そうやって、出国前もあんたに一目でも会いたかった英二に顔も見せずに、あんたは日本へ返したんだ!そして、日本へ帰った英二が聞いたのはあんたの訃報!?平和な日本であんたの訃報を聞いた英二は幸せなのか!?」
「なんだと!?」

「言い過ぎた」と内心思うものの、勢いづいてしまったシンは自分を止められなかった。

「あんたはただ怖がっているだけじゃないか!あんたが会わなくても、おれは英二に会うからな!」

アッシュに英二に会うのを止められたくなくて、というよりもアッシュの反撃が怖くて、シンはがたっと音を立て、椅子を倒して立ち上がり、そのまま部屋から飛び出して行った。
反撃する間もなく、シンに出て行かれたアッシュは一人残された部屋で、親からはぐれてしまった子どものような心細い顔になり、シンの出て行った続き部屋の方をじっと見つめた後、目を伏せつぶやいた。

「・・・もう、あんな思いはごめんなんだ・・・」



アッシュと言い別れになってから、顔を会わせ辛いまま1か月が経ってしまった。
ユーシスの話によると、アッシュは驚異的な回復を見せ、見た目上はすっかり普通に生活できるレベルにまで来たらしい。
目を醒まして以降、当初は街に帰せとうるさかったらしいが、1か月後にユーシスが英二を呼んでいる話を胡散臭く思っているようで、様子見も兼ねて、ユーシスの別邸でそのまま監視することにしたらしい。

「いちいち、ぼくの行動を監視する目で見て、鬱陶しいったらないよ」

とユーシスがボヤいていた。
空港のターミナルが視界に入ってくる段になってシンははっと気づいた。

「あぁっ!おれ、今回の“設定”、全然聞いてないぞ!まいったなー」

シンは英二を迎えに空港に向かう途中、今更のように気が付いた。
“アッシュが死んだ”としてユーシスが英二を呼び寄せた本当のところも聞いてないし、だいたい、死んだアッシュの“墓”等、細かい設定を全く聞いていない。
「アッシュのことはアッシュ自身が決めるのだから」とアッシュが生きていることに言及するのはユーシスから止められている。

『君はただ奥村英二の好きにさせればいいんだ。“墓”が見たいと言えば、適当な共同墓地でも見せておけばいいだろう』

「うー。適当なこと言ってー。皆、無責任だぞ!」

シンは右手でわしゃわしゃっと頭を掻き回して、ぴたりと止まると、

「・・・・・ま、おれに一任されたと取れなくもないな!必要があれば、その場で判断してアッシュが生きていることを言っちゃってもいいしな!」

そして、小さく「なるようになれだ!」と言って、空港ターミナルへと入って行った。



飛行機が着いたのか、入国ゲートから人がわらわらと出てくる。
迎えに来ている人も多く、背の低いシンには目の前の人が邪魔で視界が悪い。

「見逃したら、どーしてくれるんだ。っと、すみません!」

前にいる人をかき分け、なんとか人の間から顔を出した。

「いた!」



inserted by FC2 system