寄り道 Side:黄瀬 01

基礎練習だけで上がることになった、中間テスト前の最後の練習。
着替えを終えて、ロッカーから出てくる二人は軽い言い合いをしながら廊下を歩いていた。

「何でっスか〜?」
「知りませんよ。ボクにそんなことを言われても。赤司君の指示なんですから」

言い合いをしていると言っても責めているのは金髪の長身の男、黄瀬良太だけだ。
もう一人の黄瀬に比べると小柄に見える黒子テツヤは少し困った表情で応えている。

基礎練習の後、赤司に呼ばれた黒子は桃井と一緒に帰るように指示された。
いつもの如く、一方的な指示で理由を聞く雰囲気ではなかったので、こうして、赤司の指示に従うべく、桃井と待ち合わせた校門に向かっているところである。
ロッカーで着替えをしながら、黄瀬に二人で帰ることはできなくなったと告げて以降、こんな調子だった。
黄瀬にしてみれば、ずっと想っていた黒子にようやく受け入れてもらったばかりで、これからは一緒に下校したり、休日には(と言っても、休日は練習ばかりでほぼないけど)二人で出掛けたりと期待がいっぱいで、今日も当然、二人でマジバに寄って帰ろうか、コンビニに寄ろうか、それとも基礎練習だけで時間は早いから、いつもでは行けない場所に行こうか、うきうきしていた矢先に告げられた衝撃的な内容だったので、着替えの最中だけでなく、こうして廊下を歩きながらでも諦めきれない。
とは言っても、小声で。
決して、二人の付き合いは公言していない。
黒子は赤司以下、皆に好かれている。
黒子本人は「黄瀬君の考え過ぎですよ」と笑い飛ばすが、ずっと黒子だけを見てきた黄瀬には分かる。
黒子を見るときの皆の目が違うのだ。

そうこうしているうちに、校舎から出て、校門へと向かっている。

「しかし、何で桃っちなんスかね〜」

黒子の横を歩きながら、まだ首を傾げている。
「オレでもいいじゃないスかね〜」と呟いているうちに、ピタリと立ち止まると黒子へと向き直って、黒子の両肩をがしっと掴んだ。

「黄瀬君!?」

黒子の顔もさすがに驚きが滲んでいたが、黄瀬は真剣な顔で言った。

「もしかして、オレたち付き合っているのが赤司っちにバレているんじゃないスか!?だから、赤司っち、邪魔をしようとオレと一緒に帰らせないように!?」
「いや、そんなことは・・・」

「ない」と続けたかったが、赤司ならありうると思い当たって、黒子は黙り込んだ。
黙る黒子の両肩を掴んだまま、横を向いたり、下を向いたりしながら、独り言とも黒子への語り掛けとも区別が付かない勢いで黄瀬は喋っていた。忙しい男だ。

「大体、赤司っちもヒドいっスよ。黒子っちを狙っている桃っちと一緒に帰らそうだなんて、いいわけないっスよ。桃っちならいいんスかね!?ちょっと、聞いてるんスか?」

一通り不満と心配を吐き出したと思ったら、黒子があまり聞いていないことを責めてきた。

「黄瀬君。落ち着いてください。すぐそこは校門です。皆が見てますよ」
「皆?」

黒子の冷たい視線と共に告げられた言葉に校門の方を見ると、赤司、緑間、青峰、紫原と勢揃いだった。
とりわけ、赤司が冷たい視線でこちらを見ているのが分かると黄瀬は黒子の両肩から、ぱっと手を離した。
いつもなら、黒子と二人の下校を邪魔する者以外の何者でもないが、今日は頼もしく見える。

「黒子っち、桃っちと二人きりにはさせないスからね」

急に力を得たように不敵に笑う黄瀬に黒子はため息を吐いた。

(黄瀬くんはいったい何を心配してるんでしょう)

黒子だって、さすがに好きでもない人と、まして同性との付き合いを受けるわけがない。
しかし、黒子の日頃の淡々としたところが黄瀬の不安を煽るのか、黄瀬は時折、こうやって脳内妄想を発揮して、心配なあまり暴走することがある。
しかし、思ってなかったところで黄瀬と一緒に帰ることになった黒子はひっそりと微笑んだ。

『黒子のバスケ』小説の「わりと騒がしい帝光中学の放課後」からの妄想です(^ω^)
2013年7月8日

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