Sakura blooming おまけ
英二から離れて、チャイニーズのグループのところへと戻ってきたシンは誰が見ても不満顏だ。
「なんだよ、シン!シケた顏してるなよ!」
既に酔っぱらっている仲間に背中を勢いよく叩かれて、シンは幾分むせりながら、半ばヤケになって、渡されたビールを一気にぐいっと飲んだ。
「おぉっ!シン、やるな!」
「俺も!」
「俺だって!」
盛り上がる周りに少しだけ合わせた後、そっと輪から抜けたところで、敷かれたシート近くに置かれた中国風の椅子に優雅に座っているユーシスと目が合った。
目を細めて、ニッと笑ったユーシスは手にした扇子でシンを手招いた。
見事な桜にはしゃぐ皆に交わる気はないくせに、宴会の場から、そう遠くない場所に陣取って、黒服のボディーガードたちを従えて、優雅に桜を愉しんでいる。
「なんだよ」
のろのろとユーシスの傍へとやって来たシンは不機嫌そうに呼ばれた意図を問い質すと、シンとは正反対にユーシスにしては非常に上機嫌で微笑んだ。
「なんだい。あれでノコノコ帰って来ちゃったのかい?」
「・・・なんのことだよ」
シンがむっとして口をやや尖らせて、問い返すとユーシスはシンをじっと見た。
「せっかく、庭を貸してやったのにつまらないな」
「だから、なんのことだよ」
「分かってるくせに。奥村英二だよ。君がご執心の。普通には見つけにくい奥にある見事な桜の木のことも教えてやったのに」
「!」
シンが抗議しようとするとユーシスは閉じた扇子をシンの口へと当てて黙らせた。
「奥村英二のどこがいいのか、僕にはさっぱり分からないけど、アッシュが悔しがるのは楽しいからね。庭も貸したんだから、もっと英二に自分を売り込みなよ」
シンが開いた口をパクパクさせて否定の言葉を口にしようとするが、ユーシスに見抜かれていたことの驚きで言葉にならない。
(見てたのか)
あの距離でなぜ英二とのやり取りまで分かっていることに驚いた。
半ば固まったように動かなくなったシンをよそにユーシスはいつになく嬉しそうな顔をした。
「別に!・・・そんなんじゃ・・・ないよ」
小さくなるシンの声に、ユーシスはくくっと含み笑いを被せた。
「もうお見通しなんだから、隠さなくてもいいじゃないか。君は顏に出やすいから。これで気づかない奥村英二も相当なものだ」
「うぅ・・・」
ここで何を言ってもユーシスには口で敵わない気がしたシンは呻いたきり黙ってしまった。
そんなシンに、ユーシスは日頃の退屈そうな瞳が想像できないくらい黒い瞳を艶やかに瞬かせて、更にシンを煽る。
「アッシュなんかにいいところ、持って行かれているんじゃないよ。僕のせっかくの協力が役に立ってないじゃないか」
シンは先程の英二とのやり取りを思い出した。
英二と二人きりで特別見事に咲いた桜を見ようと誘い掛けたところで、アッシュの妨害にあったのだ。
(あれは絶対、狸寝入りだったと思う)
ユーシスに痛いところを突かれて、シンは渋い顏になった。
「そんなんじゃ、ないってば!もう、人のことは放っておいてくれよ」
これ以上の詮索は無用とばかりにユーシスに否定の言葉を投げつけると、くるっと背を向けて、再度、騒ぎ続けている仲間の輪へと入って行った。
(鈍い英二に、怖いニイチャン。そして、人のことを面白がってる若様・・・俺って、思ったより可哀そう?)
「おいっ。飲むぞ!」
「おぉ!シン!そう来なくちゃ」
シンが去って、周囲の喧騒が遠いユーシスには再び静けさが戻った。
一人になったユーシスは三日月のように目を細めて笑った。
「シン、顏に出過ぎだよ。僕は君を応援してるよ」
>おまけのシンと若様の会話です。
本当はこの後、夜桜編に続くはずだったのですが、それはまたの機会に(^^;)
(2013年5月19日コメントから)