Happy Halloween 01

「いい加減、離せよっ」

コングに抱えられたシンが手足をばたつかせた。
少し前を歩くアレックスが振り返る。

「もう、この辺ならいいんじゃねぇの?コング、離してやんな」
「おう」

ようやく地面に足の着いたシンは涙目だ。抱えられているのも楽じゃない。離してもらおうと暴れたこともあって、胃の辺りが圧迫されて苦しかった。

「ふぅ。ひどい目にあった」

胃の辺りをさするシンにアレックスが声を掛ける。

「もう、お前、帰れよ?ボスが帰れって言ってるんだから、今日は行くなよ」

お腹をさする手を止めて、シンがアレックスを睨み返す。

「なんで、お前らにそんなこと、指図されなきゃいけないんだよ」

下唇を突き出して文句を言うシンに、アレックスの横にたったボーンズが重ねて言う。

「ボスの言うことは絶対だからな。ボスの言うことが聞けないって言うなら」

少し言葉を切って、人差し指をシンの方へ向けると得意げに言った。

「リンクスが相手になるからな」

「なーんてな。どう?どう?決まった?」とはしゃいでアレックスに聞くボーンズに、「おぉ、かっけー」とコングも応えて、3人してシンを放置して、やいやいと騒いでいる。
アレックスがシンに向き直ったと思うと、片目を細めて、改めて釘を刺す。

「というわけだからよ、お前、本当に今日はもう行くなよ。後で俺たちが怒られるんだからな」
「ふん。お前らが怒られようがオレには関係ないけど、今日のところは帰ってやるよ」

シンは3人に背を向けて、ポケットに手を入れながら、チャイナタウンのある方へと去って行った。

「ふぅ。帰った。帰った」
「これからドーナツ食いに行かねぇ?」
「確かに腹も減って来たな」

コングの提案で3人は歩き出した。

************

「それにしてもさぁ、急にボスが現れたとき、おれ、少し涙目になったもの」

ボーンズがすきっ歯の間から咥えたフォークを揺らしながら、2人に話し掛けた。
アレックスも飲んでいたコーラのカップから口を離して、応える。

「あ〜、オレもオレも。現れた瞬間から空気怖かったよなぁ」
「すぐに帰れって言われて、むしろ、ほっとしたよなぁ」

「そうそう」と二人が頷き合う一方で、5個目のドーナツをお腹に収めて一息ついたコングがようやく会話に入って来た。

「そういえば、ボスもハロウィンパーティー来るって」
「また、そういう全然噛み合わない会話を」
「あ〜、そう。来るんだ・・・って、えぇ!?」

それまでの会話には全くそぐわないことを言い出したコングにボーンズが目を細め、眉間に皺を寄せて、突っ込む一方で、唐突なのはいつものことと適当に聞き流そうとしたアレックスは手に持っていたコーラのカップを勢いよくテーブルへと置いて、身を乗り出して、コングに問い質した。

「来るって・・・ハロウィンパーティーに?」
「あぁ」

アレックスが聞き返した頃には、コングはコーラで6個目のドーナツを流し込み、次はどれを食べようかと悩んでいるところで、返事も適当だ。

「ハロウィンパーティーだぞ?」
「うん」

次はこれにしようと掴んだドーナツを手に、コングの顔は嬉しそうだ。相変わらず、アレックスの顔を見ないで答えている。

「本当に来るって言ったのか?」

隣に座ったボーンズがドーナツに夢中のコングの脇腹を肘で付いた。
ようやく、顔を上げ、アレックスの方を向いてコングは嬉しそうに言った。

「来ないかって聞いたら、『検討する』って言ってたぞ」

アレックスとボーンズは目を丸くして、顏を見合わせた。あの、アッシュがハロウィンの集まりに来るなんて、いや、まだ来るとは言ってないが“検討する”とは驚きだ。

ハロウィンパーティーと言っても、リンクスで集まって馬鹿騒ぎするだけの集まりだが、ボスが不在なのは締まらないので、声は掛けるものの、これまでは素っ気なく、「行かない」の一言で終わっていた。
ボーンズは眉尻を少し下げて、オドオドしたように呟いた。

「だって、ハロウィンだぞ?ボス・・・カボチャ、嫌いじゃん」
「あ」

コングの手からドーナツがポロリと落ちた。

「『あ』じゃねぇよ。いったい、何と言って誘ったんだ?」


食べかけたドーナツを両手に持ったまま、上方を見て、思い出しながら話すコングの話を聞いて、アレックスとボーンズは再び顏を見合わせた。

「お前、そりゃあ」
「なぁ」

「これは本当に来るな」とアレックスが言えば、ボーンズも「うんうん」と頷いている。
ふと、アレックスがコングの方を向き、感心したように言った。

「それにしても、お前、よく、英二がハロウィンパーティーやりたがっているなんて分かったなぁ」
「そう言えば、この前会った時に、ハロウィンでは何をするのか聞かれたっけ」

ボーンズも思い出したように付け足した。
コングが得意げに、親指で自分を指した。

「そりゃあ、オレがナイーブな心の持ち主だからよ」
「お前がナイーブだったら、ゴリラだって繊細な心の・・・うげぇっ」

コングが横に座ったボーンズの首を絞め、いつものやり取りを始めたのを横目にアレックスは「今年は盛大にやらないとな」と当日へ向けての仕切りを考え始めた。

************

「まぁ、今日はここまでにしようか」

英二は雑巾を持った左手を腰に当てて、右手で前髪を掻き上げた。季節は秋に入って、肌寒いというのに、英二の額には汗が光っている。
パソコンを繋いでいたアッシュが英二に声を掛けた。

「こっちも終了だ。もう、使えるぜ」
「それはちょうどよかった。アッシュ、お腹が空かないかい?外に食べに行かない?」

アッシュは少し考える様子を見せた後、英二に提案した。

「・・・・・・ピザデリバリーでも取らないか?今日は少し疲れたな」

暫しアッシュの顔をじっと見て、英二は破顔して答えた。

「それはいいね!引っ越して最初の晩御飯だね。二人きりでゆっくり家で食べようか」

アッシュは緩んでしまう口元を抑え込むように左の手の平で覆い隠して、英二を凝視した。

(こ、こいつ・・・恥ずかしい奴・・・)

「引っ越して最初の晩御飯をゆっくり二人で食べる」。
言葉にすれば、アッシュも気持ちは同じなのだが、そんな言葉を思ってピザのデリバリーを提案したわけではなく、昼間を騒がしく過ごしたので、単に二人でゆっくり食べたかっただけだった。
自分の気持ちをどう伝えたものか少し考えた末に、疲れたことを理由に家で食べることを提案したのに、英二は即答でアッシュが言葉にできなかったことを口にした。
同じ思いが一緒だったことが嬉しい反面、言葉にするとなんだかすごく恥ずかしい気がする。

(・・・悩みとかなさそうだな)

アッシュの提案に賛同の意を示したのに、当のアッシュがそれきり黙ってしまって、顔の下半分を手で覆ったまま、自分をじっと見ていることに英二は不思議に思い、声を掛けた。

「アッシュ?ぼく、なんか変なこと言ったかい?」
「あ?・・・あぁ」

英二の声にはっと我に返ったアッシュは口元から手を外さないまま、英二に適当なものをオーダーするように言うと、隣の部屋へ逃げ込んだ。

「まだ箱から出してないものがあった。適当に頼んでおいてくれ」
「あ、うん」

返事はしたものの、急に部屋からいなくなったアッシュの行動はいかにも変だった。英二は頭に疑問符いっぱい浮かべながら、引っ越しの箱の中から、ピザ屋のチラシを探し始めた。

「変なアッシュ」

うーん。なんで、こんなに長くなったんでしょう・・・(-_-;)
書いてみたら、他愛のない話のはずが結構な長さに!
いつもはこの半分くらいが一回の更新量なのですが、頑張って書き上げてみたら、うーん・・・長いっ。
今回は31日逃してハロウィンもないでしょうと思って、29日になっちゃったので、3回に分けて、いつになく長めで更新します〜(@_@;)
殆ど推敲してないので、おかしなところがあっても目をつぶって頂けると助かります〜(^_^;)
(2012年10月29日コメントから)

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