秋の楽しみ 03

「紫の外見に真っ黄色の中身・・・・・なんか毒々しい色だなぁ」

こわごわと焼き芋を覗き込んで、アッシュがそうつぶやくのを聞いて、英二は半目になってアッシュを冷たい目で見遣ると「真っ青なケーキを作っちゃう、君たちアメリカ人に言われたくないよ。これは自然の色だよ」と言った。
肩を竦めながら焼き芋を受け取ったアッシュに「こう、ふうふうして食べるんだよ」と英二は教えながら、自分は既にはふはふと口にしていて、「久しぶりに食べたな〜。うん。結構、美味しくできたな」とご満悦だ。
英二の真似をして焼き芋を冷まそうと息を吹きかけるアッシュを英二は嬉しそうに見て、アッシュが一口食べたところに声を掛けた。

「美味しいかい?」
「あぁ。うまいな」

答えたアッシュは視線を手元の焼き芋に向けていて、英二とは目は合わないが、その表情はとても柔らかく、浮かべている笑顔も優しい。

二人でよく焼けた焼き芋を頬張りながら、しばらく、とりとめのことをないことを話していたが、アッシュが時折、ちらちらと腕時計を見ていることに気が付いた。

「アッシュ、さっきから時間を気にしているようだけど」

英二は不思議に思い、時間を気にする理由を聞こうとするとアッシュが顏を上げて、英二の顔に手を伸ばしてきた。

「英二、口に付いている」
「ん」

伸ばされたアッシュの手に英二は思わず目を閉じた。
アッシュは親指で英二の口元を拭うと自分の口元に持って行き、ぺろっと舐めてしまった。食べていた焼き芋が口元に付いていたらしい。

「あ」

思ってなかったアッシュの行動に英二の胸は急に鼓動は早め、今にも心臓の音が聞こえて来そうだ。

(うわ・・・)

英二は自分の頬が熱くなるのを感じたが、アッシュの顔をちらっと見ると、当の本人は至って平然な顔をして焼き芋の残りを食べている。英二は全身が心臓になったのではないかと思うくらい、胸の鼓動が大きく聞こえたが、先ほどのアッシュの行動は自分の思い過ごしだったかと思うほど、アッシュは何事もなかったかのように、英二が渡した焼き芋を食べている。
アッシュは単に自分の口元を掃ってくれただけだったのか、訝りながら、英二がアッシュから目を離せないでいると、アッシュの顔も段々と赤くなってきた。

「なんだよ。じっと見てたら、恥ずかしいだろ」

そして、アッシュに目の辺りを覆うように掴まれたと思うと、頭を軽く小突かれた。英二は後ろへとのけ反ったことでバランスを崩して、持っていた残り少ない焼き芋を落としそうになる。

「アッシュ!」

英二が抗議しようとするとアッシュに遮られた。

「早く食べ終わらないとそろそろ時間だぞ」

ただでさえ、人が良く、人を疑うことを知らない英二はそれまでのやり取りと噛み合わない言葉を掛けられて、すっかり気勢を殺がれてしまった。
少し前からアッシュが時間を気に掛けていたことを思い出して、英二は不思議そうに聞いた。

「?何の?」
「知っていたか?ここは焚き火禁止なんだ」

アッシュは澄ました顔で英二が驚くようなことを言いながら、自分は食べ終わって、中身のなくなったホイルを丸めた。

「えぇ!?」

英二の口から思わず大きな声が出る。
手にしていたホイル包みを下ろして、アッシュに問い返した。

「じゃ、こんなところで焚き火しちゃ、ダメじゃないの!?」
「そうだよ。だから人の目につかない場所を選んだだろう?」

しれっと返すアッシュに呆れて、「そういうことじゃなくて〜」と文句を言う英二にアッシュは追い打ちを掛けるように聞いてきた。

「ふぅん。じゃあ、日本では公園で焚き火してもいいのか?」
「いいわけないよ!」
「ここは?」

片眉を少し上げて、ニヤニヤしながらアッシュは意地悪く、短いながらも英二が答えにくい質問をした。

「・・・・・・セントラルパーク」

長めの無言の後に答えた英二の答えを聞いて、アッシュは満足そうに、にやっと笑って、「正解」と言って、英二の頭を撫でた。

「ちぇ。ここで焚き火しているホームレスのおじさんを見たことあったし、あまりに広いからすっかり問題ないと思ってたよ。だいたい、君がここに連れて来たんじゃないか」

英二がボヤく一方で、アッシュは急に背後の方を振り返ったと思うと英二を急かした。

「ボヤく暇あったら、残りも早く食っちゃえよ」

英二にそう言いつつ、事前にバケツに汲んでおいた焚き火の残り火に掛けた。くすぶっていた火がじゅっと音を立てた。

「あぁ、うん」

英二が残りを食べるか食べないかのうちに、少し離れたところから、がさっと落ち葉を踏み分ける音がして、声を掛けられた。

「あぁっ!君たち、こんなところで焚き火しちゃダメじゃないか!」
「うわっ」

英二が動揺して固まっているとアッシュが囁いてきた。

「公園の監視員の巡回時間なんだ」

そう言ったと思うとアッシュは素早くバケツを手にして、もう片方の手で英二の二の腕を掴むと駆け出した。

「逃げるぞ、英二!」
「えぇ!?」
「ちょっと!君たち待ちなさい!」

もう何が何だか分からない。アッシュの行動にどきどきしたと思ったら、ここは焚き火禁止だと告げられて、驚きも冷めやらぬうちに猛ダッシュする羽目になって、英二の心臓は先ほどから早鐘のように鳴りっぱなしだ。

(心臓に悪い)

「アッシュ、君ねぇ」

年上の者として一つ注意してやらなくちゃならないと思って、英二が少し前を走るアッシュに顏を向けるとそうそうお目に掛かることのできないような満面の笑顔で走るアッシュがいた。

「たまにはこんな悪ガキみたいなこともいいだろ?」

そして、不意に笑顔を向けられて英二は苦笑した。いつもはさすがに、こんな近くで見る機会のないグリーンの瞳が傾きかけた陽を受けて、きらきらとしている。

(やられた)

ふと気づくと英二の手はアッシュにしっかりと握られている。

「オニイチャン、走るの遅いんじゃない?しっかりしてよ。アスリートなんでしょ?あの怖いおじさんに捕まってもボク知らないよ?」
「言ったな!アスリートの本領見せちゃうぜ!君こそ、日頃、運動不足だろう?」

少し引っ張られ気味だった手を、距離を詰めるように英二が加速するとアッシュも笑って言い返す。

「ダウンタウンを生き抜いてきた不良をナメるなよ!」

思いつきで誘った焼き芋だったが、思いのほか色々なアッシュを見ることができて英二は楽しい一日を過ごせたと満足だった。

(こんなに全力疾走したら、明日は筋肉痛だろうなぁ)

そう英二は思いながらも、遠ざかりつつある背後の公園職員の声をまずは完全に振り切ることに専念することにした。


END

昨日、VAMPS(hyde)のハロウィンパーティーに神戸で参加して来ました(>▽<)
よかったら、お読み頂けると嬉しいです♪

『HALLOWEEN PARTY 2012』


自分ではかなり地味な01と02で読む人、困ったんじゃないのかしらと思いつつも、「日常が楽しい」と言ってくださる方もいて、嬉しかったです。
いつも、もう少しうまい書き方もあるんじゃないかと思いつつも、続きをあんまり引っ張るのもなんなので、掲載です(^^;)
実は描きたかったのはこの03の部分です♪
少しでも楽しいと思ってくださると嬉しいです(^^)
(2012年10月21日コメントから)

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