Happy Birthday, Ash! 後編

「シャンパンも買っておいたんだ」

英二が冷蔵庫から取ってきたシャンパンをグラスに注いだ。淡い金色に輝く液体の中から小さな気泡が上がってくる。

「まずはシャンパンで乾杯しようか」
「あぁ」

二人がグラスを合わせるとチンと澄んだ音がした。

「お誕生日おめでとう。君が生まれてきたこと、そして君と出会えて、また会えたことにも感謝するよ」
「・・・Thank you」

英二がアッシュをじっと見つめてくる。
アッシュはこの優しさに満ちた深い色の瞳に見つめられると安らぎを感じる。
英二の微笑みを受けて、アッシュも外では決して見せることのない心から嬉しそうで穏やかな笑顔を英二に向けた。
アッシュはケープコッドの家を飛び出して以降、誕生日なんて気の利いたことはしたことはなかった。

(いや、タコおやじの屋敷にいた頃は嬉しくもない誕生日祝いをされたこともあったな)

正直、自分の誕生日だと英二に言われるまですっかり忘れていたが、こうして祝ってもらうのも悪くないと思った。
そして、まだ誕生日が楽しい思い出だった頃のことを思い出した。

「グリフが居た頃は、誕生日ケーキを欲しがったオレのためにずいぶん遠かったのにわざわざ買いに行ってくれて、祝ってくれたんだ。小さいケーキだったけど、ガキのオレには最高のプレゼントだったな」
「いいお兄さんだね」
「あぁ。こうして、また誕生日を祝ってもらって嬉しいと思うときが来るなんて思いもしなかった。・・・英二、ありがとう」

アッシュが礼を言うと英二が少し困ったような顔で苦笑いをした。

「そんな切なそうな顔するなよ。こんなのは“始まり”だろう?」

つい、“幸せは長く続かない”と自分に言い聞かせる想いが顔に出たらしい。

(しまった)

「余計な心配だ」と英二に怒られるのは明らかだったので、英二の指摘は聞こえなかったふりをした。

「“始まり”?」

その一方で、英二の言葉の意味を量りかねたので聞き返すと、英二は澄ました顔をして答えた。

「そうさ。“始まり”だよ。これから、クリスマスにお正月に・・・おっと、その前にはハロウィンだってあったね。これから、ずっと続いていくんだよ」
「“ずっと”?」

目を瞠って繰り返したアッシュの言葉に英二は重ねるようにして言った。
その目はアッシュを安心させようとしてどこまでも優しい。

「そう、“ずっと”だ。君はこれまでこうしたイベントはやらずに来ただろう?ここまでの遅れを挽回しなくちゃね」
「オレの誕生日もイベントか?」

英二のおどけたような言葉にアッシュもくすりと笑って訊いた。

「そうだよ。イベントは多いほど楽しいよ。日本式のイベントもやって、こっち式のイベントもやらなくちゃ。大いに楽しまなくちゃね」
「そりゃあ忙しそうだな」

跳ね上がる気持ちを英二に読み取られることのないよう、少し目を伏せて、アッシュは口元で笑った。
サプライズで準備してくれた誕生日も嬉しいが、この先も色々なイベントを一緒に過ごすことを予定しているという英二の言葉が嬉しかった。
幸せは長くは続かないという自分の想いを英二に見透かされていたのは癪にさわるが、今はそれ以上に幸せな気持ちでいっぱいだった。

(この幸せがずっと続きますように)

昨日はアッシュ誕生日前夜祭でした♪
今日はアッシュお誕生日です(^o^)

今年も1年、多くの素敵なBANANA FISHサイトが増えますように(>▽<)
2012年8月12日

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