比翼の鳥 後編
「あんたのそんな気まぐれも伝わらなきゃ、アッシュには恨まれたままだぜ?」
そう言うとユーシスは馬鹿にしたように鼻で笑った。
「まさか!?君じゃあるまいし。あの山猫は分かっているさ。その証拠にぼくを殺さなかっただろう?あいつは元々、次にぼくに会ったら八つ裂きにしてやるなんて言ってたらしいじゃないか」
皮肉げに笑って、シンを見遣った。
「まぁ。たしかに」
屋敷まで帰ってきた後、アッシュは殆どユーシスと口利かなかったが、アッシュの纏う雰囲気は穏やかだったような気がする。
「実際、アッシュが奥村英二と会うかどうかまでは分からなかった。アッシュが釣られて出てくればそれでもいいし、最後までアッシュを引っ張り出せずにアッシュの死を信じたまま帰国してもよかった。ぼくはお膳立てだけだ。そこからどういう結果を出すのかは本人たち次第だよ」
どこまでも素直じゃないユーシスにお人よしなシンは更に忠告した。
「そういう態度じゃ、敵を作るばかりだと思うぜ、若様」
「わざわざ口に出してまで、馴れ合うつもりはないよ」
そう一旦切ると、ユーシスは目を細めて「くくっ」と思い出し笑いをした。
「でも、ぼくの意図を察したアッシュと違って、奥村英二はどうかな。君と一緒に屋敷に戻ってきての第一声が『アッシュは生きてたんだね。・・・呼んでくれて、ありがとう』だ。表面だけ見て、お礼を言ってたからね。会えなかった可能性は考えないらしい。どこまでも甘い奴だよ。」
と最後は馬鹿にしたように言うと、すっと真面目な顔をして呟いた。
「でも、それでアッシュとバランスが取れているのかもしれないな」
「まさに比翼の鳥だ」と誰に言うとなく呟くと席を立ち、
「さて、ぼくはそろそろ失礼するよ。これでも忙しい身なんでね。今日一日、実にもならないことに費やしてしまったからね。君はもう少しお茶を楽しむなら、ゆっくりしていくといい」
とシンに背を向け、ドアへと向かった。
ドアを開き、出ようというときにユーシスは振り向いて、楽しそうに目を細めて笑って言った。
「口に出さないと伝わらないというのは君にも当て嵌まるんじゃないかい?奥村英二に一日付き合ったのは単なる親切心だけじゃないだろう?」
「!?」
思ってなかった急襲にシンは慌てふためいて、思わず漏らした。
「なんで、それを!?」
ユーシスには大変珍しく大笑いしたと思うと、片手で涙を押さえながら言った。
「やっぱり図星か。シン、君はもう少し腹芸を覚えた方がいいね。そういうときは顔色変えずに『なんのことですか?』と言うんだよ」
ユーシスに引っ掛けられたことに気付いたシンは真っ赤になって、「くそう」と言ったが遅かった。
「最後に楽しませてもらった」と大笑いしながらユーシスはもうドアの向こうへと姿を消し、閉ざしたドアの向こうからも聞こえるような笑い声が聞こえてきた。
一人残されたシンは椅子へと座り直し、すっかり冷めたジャスミンティーを口にした。
「ほんとに付いてない一日だよ!」
罪悪感を感じているくせに素直になり切れない若様です(^^;)
これが若様精一杯のがんばり。
(2012年6月10日コメントから)