比翼の鳥 前編

ドアがバタンと閉まった。
笑顔でアッシュと英二を送り出し、伊部も宿泊用に整えた部屋へと案内し、室内にはユーシスとシンの二人きりとなった。

「さてと」

シンは腰に手を当て、にやっと笑って、ユーシスの方へと向き直った。

「若様、あんた、ほんとは何を企んで英二を呼び寄せたんだい?」

シンを正面から見返し、こちらも口元に笑みを浮かべ、

「別に何も企んでないと言っただろう。・・・もう少し、食後のお茶でも楽しもうか」

と言って、椅子を引き、既にディナーは片づけられ整然としたテーブルに付いて、使用人を呼びつけると中国茶を持って来させた。
シンも椅子を引いて座り、暫し、探るようにユーシスを見つめていると、ほどなくお茶が用意された。
シンには詳しいことは分からなかったが、いかにも高そうな繊細な中国風の絵が施された茶器へと鼻腔をくすぐるような香りのよいジャスミンティーが注がれた。
ユーシスの顔の前には、手に持った茶器から立ち上る湯気が揺れている。

「シン、君は“比翼の鳥”を知っているかい?」
「『ひよくのとり』?」

英二を呼び寄せた本意を聞き出そうとしたはずなのに、思わぬ単語がユーシスの口から出てきて、シンは鸚鵡返しに聞き返した。

「片方の翼と片目しか持っていない鳥だよ。1羽では飛べないのさ。2羽揃ってようやく1羽分の翼と目を持ち、飛ぶことができるという鳥だよ。」
「へぇ。そんな鳥がいるんだ」
「馬鹿だな。想像上の鳥だよ」

ユーシスに“馬鹿”だと言われて、むっとしたが一体何の話なのか分からない。若様の話はいつでも比喩に満ちていて、抽象的だ。
気持ちを落ち着けるため、未だ熱いジャスミンティーを軽く吹いて、一口飲んで意図を問い質した。

「それで、今の話と英二を呼び寄せた理由にはどんな関係が?」

ユーシスは驚いたように目を瞠ってシンを見遣って、わざとらしく「ふぅ」とため息をつくと言った。

「あいつらは“比翼の鳥”だろう?」

と言って、その後、ちょっと言い淀むとよく耳を澄まさないと聞き取れないくらいの小さい声で続けた。

「・・・・・“蠍”を放ったのはぼくだからね」

そう言うと、ぷいっと横を向いて、茶器を口元に持って行き、ジャスミンティーを口に含んだ。
やはり何の話か理解しがたく、一瞬、頭の中には疑問符が浮かんだが、「あ」と合点がいった。
シンはにやにやしながら、ユーシスに言った。

「若様、あんたも素直じゃないなあ。悪かったと思っているんなら、口にしないと伝わらないぜ?」
「『悪かった』!?」

持っていた茶器を勢いよくテーブルへと置くと、中の液体が揺れて、少し零れた。

「ばっ、馬鹿じゃないのか、君は。悪いなんて思うわけないだろう?あくまで借りを返しただけだよ」

(そんなに否定しなくてもいいのに。ほんっと、素直じゃないなあ)

とシンは内心思ったが人に謝ることに慣れていない素直じゃないユーシスに言っても不毛なだけだったので、心の声は外に出さずに、一応忠告した。

補足話をぱらぱらと。
あまり面白くなくてすみません(^^;)

(2012年6月3日コメントから)

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