再会 おまけ

たった一日ではあったけど、ようやくアッシュとの再会を果たした英二には長い一日だった。
「あんな奴のところに戻る必要ない」と最初は言い張ったアッシュだったが、英二が困ったように

「そういうわけには行かないよ。伊部さんが待ってるもの」

と笑うので仕方なくアッシュも一緒に戻ることにした。
シンは

「ここからまだ結構距離あるぜ」

と言ったが、英二が

「アッシュとこうしてまた会うことができて、少しハイになっているのかな。街や皆、目に映る全てのものが祝福してくれてるみたいだ。もう少し街を感じながら帰りたいよ」

なんて妙に乙女チックなことを少し照れたように言うもんだから、思わず見とれて頷いてしまった。

(いい年した男がかわいい顏して言うことじゃないぜ)

英二の身に危険が及ぶとなれば別だが、そうでなければ、基本的には英二の言うことを聞いてやるアッシュは、今もシンの目の前で「ったくガキだな」とか言いつつも、歩く気になっている。
結果、距離があると言っているのに男3人で歩くことになった。
その割にはアッシュと英二は二人、互いの傷の様子を心配しあうといった、なんとなくシンには入りづらい雰囲気を醸し出して、シンが入れる空気にない。シンは仕方なく数歩、二人の前方を歩くことにした。
もうだいぶ落ちた陽が最後の悪あがきなのか、一際強いオレンジ色の光を放っているが、シンの目がなんだか染みるような気がするのは残光によるものだけではないだろう。

(・・・なんか虚しい・・・今日一日のオレって・・・)

シンの後方で互いを気遣う話が一段落したのか、会話が途切れ静かになったと思ったら、少しの間を置いて、アッシュが躊躇しながら英二に訊いた。

「それで、英二はいつ帰ってしまうんだ?」

アッシュの声は何気なさを装っているが、寂しさが滲んでいる。

「え?ぼく帰らないよ?」

事もなげに返した英二に、先を歩いて聞き耳立てていたシンも思わず振り返り、アッシュと思わず声が揃った。

「は!?『帰らない』!?」
「えっ!?『帰らない』???」

二人の驚きを介せず、英二は答えた。

「うん。君が死んだって聞いて、気持ちの整理をしなくちゃって思う一方で、もう永住するしかないって思って来たんだよ。でも、君がこうして生きていたんだから、やっぱり帰るわけには行かないよ」
「はぁ!?どっちでも帰らねえんじゃねぇか。だいたい言ってる意味が分からねえよ」

アッシュは英二の「帰らない」という言葉を聞いて、「意味が分からない」と言いつつも、顔が嬉しそうだ。口には出さないが、英二を見る目は優しく、「仕方ねえなあ」と言っている。
英二がアッシュに反論して、二人がぎゃあぎゃあとじゃれ合いだしたが、シンには分かるような気がした。

(きっと英二はアッシュが生きていても、死んでいても傍に居たかったんだ・・・)

そう思うと二人の絆が見えたような気がして、シンはふと寂しい顏をしたがすぐに両手で自分の頬をぱんっと叩いた。

(羨んでいるばかりじゃ、そこには立てないからな!思い立ったところがスタートラインだろ?)

「なんだ、アッシュには分からないのか?英二、オレはお前の気持ち、分かるぜ?」
「なに!?」

不敵に言ったシンにアッシュが途端に眉を顰め、噛み付いてくる。
二人の不穏な空気を全く読まない英二は「あ、分かる?」なんて呑気に答えてる。
ふと気づけば、英二はもう歩き出していて、アッシュとシンは置いて行かれた恰好だ。アッシュと会えたことがよっぽど嬉しかったのだろう、鼻歌交じりにスキップでもしそうな勢いだ。
アッシュは一瞬怖い顏をしたが、英二が少し離れて行ったのをちらっと見ると、すぐに余裕の顔で

「子供だな。余裕のある大人は『オレは分かってる』なんて、わざわざアピールしないのさ」

と返してきた。

「う」

思わず言葉に詰まったが

「すぐに大人になるさ。なにしろ、成長期だからな」

と気持ちで踏みとどまって言い返した。
頑張って返したシンにアッシュはにやりと笑った。

「言っておくが、既に大人のオレに会いに、“わざわざ”ここまで来たんだぜ。」

一番痛いところを突いてくる。アッシュに言われなくても、そんなことは一日中、英二と一緒にいたシンが一番よく分かってる。
そして、攻撃の手を緩めずに更に追い打ちを掛けてくる。

「・・・・・オレはロックフェラーセンターのことを忘れてないからな」

先ほどまでは冗談交じりに笑顔も見えたのに、英二へのシンの暴挙を非難するアッシュの目はどこまでも冷たい。
あまりの冷たい視線にシンが返す言葉を探しているうちに、アッシュはすっと離れていき、英二に追いつくと、肩を抱いて、

「英二、もう少し急ごうぜ」

と言ったと思うと、ちらっと後ろを振り返り、シンにだけ見えるようににやりと笑った。

「・・・・・・英二の前だと猫かぶりやがって・・・・・」

シンはぐっと腹に力を入れて、でも、小さく呟いた。
そして、離れていくアッシュに向かって叫んだ。

「すぐに並んでやるからな!!」

それを聞いた英二がやはり気が抜ける呑気さで言った。

「大丈夫だよ。ちゃんと待ってるから、早くおいでよ」

『再会』にはたくさんの拍手ありがとうございましたm(__)m
また、毎日たくさんの方が訪問してくださいました♪
とても嬉しかったです(*^^*)

『再会』の後のおまけ話です(^o^)
シンから見た二人です♪

(2012年5月25日コメントから)

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