Happy New Year 2014

点きっ放しのテレビでは各地を中継して、新しい年を迎えようとしている。
向かいでは赤司が口の端を上げて、緑間と他愛のないことを話しながら、たまにテレビへと目を遣り、その横では緑間がミカンを剥いている。
神経質、もとい、いつでも人事を尽くす緑間はミカンの白い筋が一片たりとも残さないように剥いているのに、傍に座った紫原が無造作に剥いた傍から口の中へと放り込んでしまうので、一向に溜まらない。

「お前のために剥いているのではないのだよ!」
「え?そうなの?」
「当たり前なのだよ!」

「年越しそばでも食べに来るといい」という赤司の誘いでキセキは赤司の家で年越しすることになり、黒子と年を越したかった黄瀬は喜んだものの、贅沢言えば、黒子と二人でしっとり年を越したかった。
6人で囲んでいるのは炬燵。こんな大きい炬燵があるのかというツッコミもあるが、赤司の家に炬燵があるということに驚いたが、部屋に入って、炬燵を見て固まる緑間と黄瀬に赤司は

「敦が冬は絶対炬燵だと言うから用意したんだ」

とさらりと笑った。
長方形の炬燵に赤司と緑間が並んで座り、短い方の一辺には紫原が座り、対面には黄瀬と青峰。青峰は年越しそばをたらふく食べたと思ったら、今は炬燵に入ったまま、眠り込んでいる。時折、黄瀬を蹴ってくるのは、勘弁して欲しい。
黒子はというと、紫原の対面、赤司と青峰に挟まれて、ミカンを剥いている。黄瀬には一番遠い。
黄瀬は時折、恨めしそうに黒子を見遣るが、たまに目が合ってもすっと視線を外されてしまって、もどかしい。

(あ、また)

見ていると黒子はしきりにテレビを見ている。黒子が食いつくような内容にも思えないのだけど。
黒子と離れてしまって、すっかり意気消沈の黄瀬が惰性でミカンの皮を剥いていると、黒子がすっと立ち上がるのが視界の端に入った。
縁側に面した障子を開けて出ようとした黒子が部屋を振り返った。

「黄瀬君。お手洗いの場所を教えてもらえますか?君、さっき行きましたよね?」
「廊下をまっすぐ行って、折れた先にあるよ」

赤司が場所を教えるが、黄瀬は手を挙げて応えながら立ち上がった。

「あ、あぁ、いいっスよ」

紫原の「な〜に〜、連れションなの〜?」と言うのんびりした声を背に黄瀬も廊下へと出て、障子を閉じた。
赤司の家は大きな庭を有していて、鯉のいる池もある。絵に描いたような金持ちの家だ。

「こっちっスよ」

月明かりが庭を明るく照らし、池には光が揺れている。
月の冴え冴えとした光に黄瀬の金髪が仄かに発光するように煌めいている。黄瀬の後ろを付いて歩きながら、黒子は黄瀬の髪へ思わず伸ばしそうになった手をぐっと握って、途中で止めた。
まだ。まだだ。

「寒いのに付いて来てもらって、すみません」
「いいっスよ。・・・一緒に年越しできるのは嬉しいっスけど、これが二人きりなら言うことないんスけどね」

振り返って、残念そうに眉を下げて笑う黄瀬を黒子はじっと見る。

「黒子っち?」

歩みを止めた黒子を不思議そうに見返すした時。
今出てきたばかりの部屋から、わっとテレビの盛り上がる声が聞こえて来た。

「明けましておめでとうございます、黄瀬君」
「え?あ、あぁっ、おめでとうっス!」

急に言われて、慌てて返す黄瀬に黒子はふわりと笑った。

「一番乗りですね」
「え?」
「一番に言いたかったんです」
「黒子っち・・・」

月の光の中の黒子は優しく微笑んだ。
気持ちを抑えられなくなった黄瀬は右手で黒子の頭を抱え込んで引き寄せる。

「あ」

顏を少し傾けて、そっと唇に口付ける。
本当はもっと深く口付けたいのだが、新年明けて、少しは厳かな気持ちになったからか、それとも、月光に照らされた黒子が神聖に映ったせいだったのかもしれない。
黄瀬の胸を押し返す黒子の両手には力が入っていない。

「新年早々、イグナイトはかわいそうですから、今日は大目に見てあげます」

そう言った黒子の目は少し潤んで見える。二人きりでないのが本当に残念。

「大目に見てくれてありがとうっス」

にっこり笑って答えると黒子が少し目を伏せて、来た方向へと向き直る。

「さぁ、部屋に戻りましょう。いつまでも廊下に居ると冷えます」
「え?手洗いは?」

手洗いにも行かずに部屋に戻って行く黒子を追い掛けながら、合点が行った。
ずいぶん、テレビを見ていると思ったら、0時を迎える瞬間を計っていたのか。手洗いに行くのは口実。

「かわいいことをするっスね」

2人になりたかったのは自分だけではない。そう思うと口元が緩んでしまう。

「黄瀬君、だらしのない顏は止めてください」
「ヒドっ」

部屋の障子に手を掛けながら黒子が黄瀬に冷たい言葉を掛けながらも頬が赤く染まっているのは廊下の寒さのせいだけではないだろう。
今年もこの無表情を装った感情豊かな黒子に振り回されるのだろう。

部屋に入ると、起こされた青峰も含めて、皆が二人を待っていた。

「なんだよ、便所ならさっき、行っていたじゃねぇか」
「赤司君の家は広いので場所を忘れてしまったんです」

青峰と黒子のやり取りを面白そうに見ている赤司の目は「全てお見通しだよ」と言っているようにも見えた。

「まぁ、そういうことにしておこうか。涼太も早く座りなよ」
「黒ちん、おそーい」
「皆、待っていたのだよ。黄瀬なら置いて来てもよかったのだよ」
「すみません」
「さりげにヒドいことを言うの止めてくれないっスか」

赤司の声に黄瀬も座って、皆で居住まいを正す。

「皆、今年もよろしく」
「よろしく〜」
「今年も人事を尽くすのだよ」
「はいはい。よろしくっと」
「おめでとうっス〜」
「おめでとうございます」

今年も一年いい年になりますように

2014年1月1日

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