Happy New Year 2013

時計の針が0時を回った途端に通りの方ではわっと人々の歓声が湧き上がって、どこかでは花火も打ち上げているらしく、遠くから響いてくるのが聞こえる。

「新年を迎えた各地では・・・」

TVでは各国の新年を迎えた瞬間の映像が流れ、続けて女性キャスターがアメリカ国内の映像と共に新年の挨拶を述べている。

「あ〜、そっか。時差があるから日本は既に新年を迎えているんだね」

英二がローストチキンを口に運びながら、呟いた。
ローストチキンに栗きんとん。エビを焼いたもの等々。テーブルの上には英二が少しはお正月気分を味わいたいと日本のおせちに似たようなものを並べてある。
クリスマス気分が抜けきらないうちに大晦日になってしまい、「準備が間に合わなかったんだよね」と英二が用意した料理はかなり和洋折衷だ。
重箱に詰めるわけでもなく並べた料理はもはやおせち料理なのか何だか分からない。
アッシュと二人、それら料理を摘まみながら新年を迎えた。
嬉しそうに画面を眺める英二に少し聞きにくそうにアッシュが訊く。

「本当に日本に戻らなくてよかったのか?」

訊いた後にアッシュは英二が用意したお屠蘇をくいっと飲んで英二の表情を窺う。

「年賀状くらいは出したよ。あ、君のお父さんにもクリスマスカードを出しておいたよ」
「な!」

眉根を寄せて聞いたアッシュとは対照的にあっけらかんと答えた英二の言葉の後半に聞き捨てならないことが含まれていて、「何を勝手なことをしてるんだ」とアッシュが口にしようとしたところで、玄関の方から呼び鈴の音がした。

ごーん。

単調な呼び鈴に英二が腰を浮かして、

「誰だろ?僕、行ってくるよ」
「相手を確認してから開けよ?」

「分かってるって」と返して玄関へと向かう。
ドアスコープから外を覗くと、リンクスの3人がドアが開くのを待っている。

「よぉ、英二!」
「Happy New Year!」
「楽しんでるか!」

英二がドアを開けると口々に言いながら3人が入ってきた。

「君たち!来たんだね!入って、入って!」

英二が嬉しそうに3人を奥のリビングへと案内すると、アッシュがちらっと3人に眼を遣った。

「来たのか」

アッシュの愛想のない一言でアレックスとボーンズは笑顔を浮かべたまま、互いの脇腹を肘でつついて小声で会話をする。

(ボス、歓迎ムードじゃないぞ)
(怒ってねぇか?)

2人が次の言葉を探している間に空気を読まないコングが暢気に言った。

「きっと、英二が料理をいっぱい用意してるんじゃないかと期待して来たんだけど、うまそうだな。おっ、エビだ!」

いつもだとここで、ボーンズがコングの足を踏むなどして空気を読めと指導するところだが、コングの一言にアッシュがくすっと笑って、英二がテーブルに付いたらどうかと誘ってくれた。

「まだ冷蔵庫にもあるから、座りなよ」

英二が皿と料理を取りにキッチンへと消えた間に3人が次々にアッシュに声を掛ける。リビングに3人が現れた当初は些か冷めた様子だったアッシュも表情を緩めて、相槌を打っている。
英二が冷蔵庫から料理を取り出して、一気に持って行けるようにトレーに乗せているところで呼び鈴が鳴った。

ごーん。

「アッシュ、出てくれる?」

キッチンからカウンター越しに英二がアッシュへ頼む。

「あぁ」

残された3人も「誰だ?」と囁き合う中、アッシュが玄関のドアを開ける音がして、話し声が聞こえた後、バタンとドアを閉める音がした。
スタスタとアッシュが一人でリビングに戻って来て、英二が声を掛けた。

「誰だった?」
「家を間違えたらしい」

答えるアッシュは少し憮然としている。英二がもう少し聞こうとしたところで

「間違えじゃねぇよ!」

と大きい声がしてシンが入って来た。

「シン!」
「ドアを開けた途端、『帰れ』と言ってドアを閉めるんだぜ?このニイチャン」

英二が苦笑いする一方でアッシュはTVの画面を見たまま、「鍵は閉めなかっただろ」と言った。
アッシュに舌打ちで応えたシンは手に持っていた大きいカニを得意げに掲げた。

「英二!カニを持ってきたんだ。これ食おうぜ。お前、食いたいって言ってたじゃん」
「わざわざカニを持ってくるなんて、チャイニーズのボスも暇なんだな」

ボーンズがにやにや笑って言えば、シンも

「なんだ、お前ら、手ぶらでやって来たのか?さすが、気の利かない奴らだな」

と返し、最初は諌めていたアレックスも参戦して一気に騒々しくなった。コングといえば、舌戦はアレックスとボーンズに任せているのか、英二の料理に夢中なのか、見向きもせずに「これうまいな」、「おっ、これは」と言いながら食べ続けている。

ふぅと呆れたようにため息をつくとアッシュがきっちんへと入って来た。

「せっかく、静かに年を迎えたのにな」
「まぁ、こういう賑やかなのもありだよ。それより、このカニ、どうやって食べたい?」

英二の言葉にアッシュが英二の傍へと寄って行き、肩を並べて一緒にまな板に置かれたカニを眺めた。

「日本だったら、どうやって食べるんだ?」
「うーん。そうだなぁ・・・」

リビングでは3人が騒がしく言い合いを続ける中、二人はどう食べるのがいいのか相談を始めた。
既に料理を始めた英二に、自分も一緒に料理を考えたかったとシンが涙目で訴えるのはもう少し後。
英二はアッシュと相談しながら、賑やかな年明けを心から嬉しく思った。

(今年もよい1年になりますように)

あけましておめでとうございます(^ω^)
昨年は大変多くの方に拙文を読んで頂き、また、嬉しいコメントを頂くことのできた嬉しい年になりました。
今年もマイペースに更新できたらいいなぁと思ってますので、宜しくお願い致します♪

いつものごとく、計画性のない更新なので、急遽、年越しネタで更新してみましたがいかがでしょうか(^^;)
ほんのちょっとした一幕なので、たいした話ではありませんが、お楽しみ頂ければ幸いです(^^)

皆様におかれましても、素敵な1年となりますように。
(2013年1月3日コメントから)

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